2006年07月01日

著作権に関して

 当ブログでは500文字の心臓に掲載されている著作物を批評目的で引用しています。すべての著作物の出所は以下のホームページとなります。
http://www.asahi-net.or.jp/~nv5y-mngs/magazine/
 また、批評段階においては著作物が無名の作品から引用していますが、各編の最終回において著作者名を列記しています。

 
著作権法(引用)

第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
  一 憲法その他の法令
  二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法<平成十一年法律第百三号>第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
  四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項若しくは第三項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
  二 第三十四条第一項、第三十七条の二、第三十九条第一項又は第四十条第一項若しくは第二項の規定により著作物を利用する場合
  三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。

2 前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
3 第四十三条の規定により著作物を翻訳し、編曲し、変形し、又は翻案して利用する場合には、前二項の規定の例により、その著作物の出所を明示しなければならない。

http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html
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2006年07月03日

緑の傘編(01)

<緑の傘1>
前夜、父に呼び出された。
「いいか。父親になるっていうのは、『緑の傘』になることなんだ。自分の傘を思い出してみろ。夏冬問わず雨から、ただただ黙って守ってくれただろ。でもな、守ると言っても、傘が守ってくれるのは、雨の日だけだ。」
 父はタバコに火を点ける。
「父親って言うのは、子供が辛いときだけ傘となって身を守ってあげればいいんだ。俺は、そう思う。」
「緑じゃなくてもいいじゃん。」

B:中々、掴みがいいと思う。「ああ、語り手に子どもができたんだな」ってことが、なんとなく分かる。
A:確かに。そして父親を傘に喩えて、さあだからどうなるんだ、と思ったところでお終い。ちょっと、どうしたらいいのか読んでいて困った。投げ出されてもなぁ、と。
B:そうそう、主人公の科白は笑えていいと思うんだけど「だから何?」だよね
A:これって、比喩に使おうとしたけど使いこなせなかったごめんね、みたいなことなんだろうか。そんなこと言われてもね。
B:もしかしたら、緑の部分がなにかの比喩になっていたら、良かったのかも。葉っぱ、とか? いやいやいや、そうじゃないね。緑の傘=葉っぱだったら、ありがちだね。
A:というか、緑の傘自体は、何の比喩としても使われていないから、ただの強牽付会としか思えない。むしろこの話がここにあること自体が疑問
B:ここにあることって?
A:このテーマの参加作品として存在していること。
B:まあ、応募するのは自由だから。
A:そりゃあね。場にそぐわないだけで、居ることは自由だろうけど。
B:そこまで悪いとは思わないけどなあ。
<緑の傘2>
「やめてくれよ。ぬれちまうよ」
雨が降っている。たいした雨じゃあない。
「酸性ウだったらどうするんだよ。俺、溶けちゃうよ」
カサが僕を見ている。同情を売る気だ。
「きっと、すごくツメタイんだ。風邪ひいちゃう・・・・・・」
僕だって濡れるのはいやだ。
持ち上げようとするけど、動かない。排水用の溝に爪を立てている。
「アマがえるのくせに」
ビクともしない。だめだこいつ。
雨はまだ上がらない。家に帰ったらシャンプーをリンスしよう。あぁん。
「ぶんぶん振るなよ。怖いんだから」
青い空の下に出てひっぱると、今度はおとなしくカサになった。
「こういうのもいいね」聞こえないようにつぶやいて、青いカサをぶんぶん振った。
「抜ける抜ける」と、毛根が騒ぎ出した。あぁん。

B:何が悪いんだろう?
A:いささかレトリックが過剰、かな?
B:とりあえず、ねえ。「すごくツメタイんだ」ここは「すごくツメタいんだ」の方がいいと思う。
A:「爪を立てている」との兼ね合い?
B:そうそう。
A:「今度はおとなしくカサになった」で引っかかってしまった。カサじゃなかったのか、って。
B:カサなのか、アマがえるなのか、毛根なのか、よく分からないよね。
A:もしくは「今度はおとなしく傘になった」なら、傘の機能を果たすようになった、とか読めなくもないかな。
B:四行目まではいいなと思う。というのも三行目で「酸性ウ」と言っているのに、五行目では「きっと、すごくツメタイんだ」とあって、もしかしてその場その場で思いついた文章を書いているのかなあと思ったから。
A:カサ=髪の毛、だったりするのだろうか
B:ほほう。
A:雨が上がって、帰宅して、頭を洗う。そういう話?
B:納得しかし、分かりづらい
A:非常に分かりづらい。やっぱりレトリックの過剰ではなかろうか。
B:うん。どこらへんが、緑(青)の傘なのかも分からない。酸化したら、青になるのかな?
A:緑色に染めた髪の毛? だとしたら珍しい
<緑の傘3>
 傘をなくしちゃったので握るところの先ににっこりカエルくんの頭が付いた緑の傘を買ってもらった。
 雨が降ったのでカエルくんの傘をさしてお出かけした。
 風が吹いたのでカエルくんの傘が飛ばされた。
 地面に当たってカエルくんが傘から取れちゃった。
 傘から取れたカエルくん雨に降られてにっこりした。

B:面白くないね。
A:最後の一行がなかったら、私もそう思った
B:あれ、ってことは最後の一行があるがゆえに高評価?
A:最初の一行でなくなった傘、最後の一行で解放されるカエルくん、この対応が傘の行方不明の理由を想像させる。
B:もしかして、ループしてるってこと?
A:ループしてるかどうかではなくて、傘は別のものでもいいけれど。人は傘をさそうと、雨を嫌うけれど、傘は雨が好きなのかもしれない。だから、人を待ちきれずに、先に雨の中へといなくなってしまうのかもしれない。とかいう想像が働く。こうなると、他の三行の味も素っ気もない語りが、想像の邪魔にならなくて良い。
B:それは深読みなんじゃないかなあ
A:深読みかなぁ。
B:まあ、読み方は人それぞれ、千差万別だから、Aの言いたいことも分からなくはないけどね。
<緑の傘4>
何の前触れも無く落ちてきた青葉は、サトウさんが落した物だった。
サトウさんというのは、義兄の姉のお隣さんの古い知人であり、私とも遠縁に当たるという人である。なんだかよく分からない道楽のような仕事をしていて、私とは、年に一度しか会えない。
毎年、この時期になるとサトウさんは此処を訪れ、トラックの荷台いっぱいの桜の花びらを、今では青葉の茂る、桜だった木の根元に散布していく。
染井吉野、兼六園菊、八重紅枝垂、普賢象。あと、私の知らない沢山。

来年もまた、柔らかな光に映える薄紅達が降り注ぐように、と祈りを籠めながらサトウさんは桜の花びらを運ぶのだそうだ。
荷台が空になる頃にはもう、私の身体はすっかり、桜の花びらと同化してしまっている。
「じゃあ、また来年に」
「また、来年、ね」
額の前で、ポーズを決めてサトウさんは帰っていく。私は、花弁に埋もれた掌で、姿が見えなくなるまでお見送りをする。

エンジンの音が聞こえなくなると、私にはもう眠ることしか出来ない。
サトウさんがばら撒いて行った花弁は、斑に透ける白い光の下で、まるで百年のように長い時間をかけて緩やかに腐敗し、土へと還っていく。

B:ちょっと読みづらいね。
A:うん。
B:漢字をもう少し開いたほうがいいのと、句読点の位置にもっと気を配る必要があるんじゃないかな。
A:「薄紅達」は「薄紅たち」のが良いだろうな、とかね。
B:この展開を書くのなら、私をサトウさんの遠縁にするのではなく、桜にしてしまった方が絶対にいいと思う。
A:え、うーん、桜じゃないの?
B:桜なのか、根なのか、土なのかよく分からない。
A:いや、桜だよ。緑の傘だよ、だって
B:え、そうかなあ
A:葉桜でしょ。
B:あ、もしかして私=葉桜で、サトウさん=言わば花咲か爺さんってこと?
A:まあ花咲か爺さんでなくても、風とかでもいいけど、そうじゃないかな
B:ほむほむ。
A:読みにくい以外は、大樹の存在感があって良かったと思う。
<緑の傘5>
 雨が降り続く憂鬱の時期には真面目をカタカナにしてしまう恐ろしいまじないがあるみたいだぜ。シンリョクのキセツにアラワレル、ソラ、ブンガクがカタラレルヨ。サミダレ、ツユ、アラシ、タイフウ、アキサメ、ミゾレ、コトバはまるでボーヨミのヨーニ、クルクルマワセ ツカッタ ニオイ ニ マミレタ パラソル を

B:これはリズム感があっていいね。特に「コトバはまるで」以降が秀逸。逆に言えば序盤がちょっと冗長かな。終盤がスピーディなだけに。
A:ああ、そこは確かに「ボーヨミのヨーニ」は面白いね。でも、なんか、それ以外に良さが分からないな。
B:そう。リズム感だけでなく、意味があればよかったね。
A:特に気になったのは「サミダレ、ツユ、アラシ、タイフウ、アキサメ、ミゾレ」という語の選び方。直前に「シンリョクのキセツ」とありながら、ここで季節感がめちゃくちゃ
B:う、そこはちょっと疑問。アジサイとか、カタツムリを入れてイメージを梅雨に固定させてほしかった
A:ああ、そうか「ツカッタ ニオイ ニ マミレタ パラソル を」か。ここにテーマあり、か。
B:そうだよ、そうそう。
A:理解した。後半は秀逸。季節感はむちゃくちゃ。カタカナを使っている点については?
B:素晴らしいと思うよ。動きがあって風を感じる。
A:「まじない」を平仮名にしていたりして、だんだんと壊れているような演出にも見えるけれど
B:そうだね、少しずつ加速していっているような感じだね
A:けれど、それが何を表しているのか、ちょっと。リズムに誘導しているのかな。
B:まあ、リズム命の作品ということで、いいと思う。
<緑の傘6>
 傘が回っている。くるりくるり、ゆっくりと。
 やや大きめの傘だ。淀んだ深海のような濃い緑色をしている。
 傘の上では白、黄、紫、だいだい、黒、青、灰の色の鼠が走っている。傘の回転に速度を合わせて、同じ方向に向かってせわしなく四本の小さな足を動かしている。
 その上には尻尾を荒縄でしばられた八匹の虎猫ぶら下がっている。虎猫は鼠に向かって前足を伸ばし、銀色の鋭い爪を出している。しかし、後少し届かない。その爪が空を切る度、ぶらんぶらんと八匹の虎猫は揺れる。
 傘の下には母と妹がいる。ふたりは下着姿でディープキスをしている。喉が焼け切れるほど何度も何度もお互いの舌を交換している。妹の右目はまち針で留められたように大きく開かれている。
 ぼくはマンションのベランダから双眼鏡を使ってその姿を覗いている。

 傘が回っている。くるくるくる。
 若干その速度は増したようだ。

B:来たね。
A:うん?
B:今日、初めての難敵じゃない?
A:かな? なんか、あんまり、たいしたことないように見えるけれど
B:いや、すごいと思う。まずはその発想が、そして作品から喚起されるイメージが狂気的。ただ、もうほんの少し手が届いていないという気もする。
A:緑の傘から、ここに持ってくるのは、確かによくやるなぁ、とは思うけれど。イメージといっても、ごちゃっとまとめただけのような、あまり繋がりが見えてこない。
B:細かいところでは、例えば、鼠の色。「傘の上では白、黄、紫、だいだい、黒、青、灰の色の鼠が走っている」ここで「だいだい」だけひらがなで書けるのがすごいと思う。ふつうだったら、ここは躊躇して「橙」と漢字表記に甘えてしまうのではないかな
A:そうか「灰」を入れて考えれば、確かに不思議なくらいだ。もしかして、猫と鼠は、どっちかが母でどっちかが妹だったりするのだろうか。
B:ううん、どうだろう。それは考えなかったし、違うような。
A:違うよね。
B:もうひとつ面白いなと思ったのは、傘の回転が加速している点。一行目では比較的ゆっくりなのが、最後では速度が増しているとある。これは鼠が猫に脅え、母と妹がキスに熱狂し、見ているぼくが興奮しているからじゃないかなと思う。
A:それはそうだと思うけれど、普通に比喩では?
B:え、何の比喩?
A:感情の激しさを速さであらわすとかは。
B:ああ、うん。だから、感情を速度で表してしまうところ、しかも変な感情によって加速するところが、狂気的。
A:変な情景を冷静に描いている、とは思うけれど、狂気の存在は感じないなぁ。
B:「尻尾を荒縄でしばられた」猫といい、「下着姿」の「母と妹」といい、「まち針で留められたように大きく開かれている」といい、それらを観測しているぼく=母の息子で妹の兄、という構図は実に気持ち悪い。狂気的というより、気持ち悪いと表現した方が正しいかもしれない。それも何だかよく分からないけれど、何となく倫理に反しているような気がする、という意味での気持ち悪さ
A:まあ気持ち悪さはあるかもね。「まち針」はちょっとドキッとはした


B:じゃあ、今日やった分の集計結果を見てみますか。お、<緑の傘5>が、根多加良さんじゃない。
A:ねぇ。けっこう酷いこと言ってしまったような(苦笑)
B:<緑の傘6>は案の定、正選が三点入ってるね。
A:それが私にはなぞ。
B:Aの評価してた<緑の傘3>は完全にスルーされてるね。
A:ねぇ。どうなってんやら。<緑の傘4>とかも、逆選ひとりだし。
B:逆選ってのは少し首を捻るかな。正選まではいかないけれど、次点は取ってていいと思う。
A:だよね。
B:では、今日はこんなところで。
A:ほい。
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2006年07月04日

緑の傘編(02)

<緑の傘7>
 貴之が謝りつづけても、前を歩く愛美はふり向いてくれなかった。
 パステル調のグリーンで、柄では愛嬌あるカエルがウインクしている。そんなお子様な傘を見て、つい吹き出したのが原因だった。
 貴之はため息をつき、傘の柄でこめかみをかいた。予報によると、午後は晴れだ。平凡なビニール傘は、朝しか出番がなかった。
 また謝ろうとして、言葉を飲み込んだ。愛美の頭上で、看板が塗られているのに気がついたから──だけではない。大型缶が倒れ、塗料が流れ落ちてきたためだ。
 すばやい動きで、愛美に傘を差した。間一髪。ビニール生地のうえで、塗料が跳ねる。
 直後、頭にガンときた。転がる缶を視界に収めながら、貴之の意識は遠くなっていった。
 目が覚めたのは、病院のベッドでだった。横にいた愛美が、胸をなで下ろしていた。
「よかった……」
 貴之は愛美と病院をでた。予報ははずれて、雨が降っていた。ふたり同時に傘を開く。ありがたいことに、塗料に染まったビニール製も、いっしょに救急車にのせられていたのだ。
 おそろいの色をした傘を差し、貴之は愛美と肩を並べて、帰途へとつくのだった。

B:いいね
A:なんか、ほっとするね
B:地味でサプライズも大したことのないものだけど、こじんまりと上手く作られてるね。ただ、序盤に少し難ありかな。
A:上手く構成されているよね。序盤は、そうかな?
B:凡庸じゃない?
A:それは、この作品の場合は悪いことじゃないような気がする。
B:まあね。良くも悪くも、ウェルメイド。あまり語るところがないね
A:まあね。
<緑の傘8>
 アタシの誕生花ニオイカントウからは過保護な母親を連想します。大きな葉は日光を遮り、周りの草を枯らしてしまうそうです。
 仕事もしない家事もしない彼を横目に晩ご飯を作る午前三時半。客から貰ったアクセサリー類は煩わしいので外します。

B:あ、分かった
A:私にはまだ分からない。
B:つまり、主人公は水商売の女性で、深夜を過ぎてから家に帰ることができるわけ。そうして、帰ってきてみるとニートの彼は、ひとりで晩御飯が作れないから、午前三時半なんて時間に晩御飯を作ることになる。
A:それはいいけど、二行目だけでしょ? 一行目とは、どうかかわる?
B:一行目は主人公の比喩でしょう。彼女が彼の世話を焼きに焼いたから、彼は仕事も家事もできなくなっちゃったんじゃないの?
A:そういうことか。たぶん、私にとっては、過保護と世話を焼きに焼くというのが、少し結びつかなくて
B:過保護の母親って子どもに何もやらせないでしょう。至れり尽くせりで育った子どもは、家事ができないんだって
A:ああ、そうか。横目に見てたりするところが、過保護さと結びつかないのかな。ちょっと迷走してるな私の発言、ごめんごめん。
B:いやいや、これは難易度が高いと思う。パッと見では、なんの話をしているのかまるで分からないし。読者に要求している読解力が高いのだと思う。
A:うーん。それだけ高い読解力で読むと、面白いのかな?
B:面白い。傑作。僅か二行の作品だけれど、背後に大きな物語を予感させてくれる。今のところベストはこれだね
A:私はちょっと、なんとか読むと、どうも主人公の気持ちがハッキリしてないようで、過保護なのか、彼に呆れているのか、それも不安定で、あまり伝わってこないけどね。
B:確かに、明瞭には描いてないかな。でも、午前三時半にわざわざ彼のために晩御飯を作ってあげるところを見ると、放っておけないっという愛情が見える。
A:「客から貰ったアクセサリー」は、何だと思う?
B:ガジェットのひとつでしかないと思うけど。仕事に対するしがらみという意味も含まれているのかも。
A:彼との関係を書いているところに、仕事のしがらみは、どうかかわってくるのだろう。
B:最後の一文がなければ、主人公が午前三時半に帰宅するような職業であるとは見抜けないでしょう。だから、それを思わせるガジェットが必要なのだと考えていた。
A:具体的にピアスとか書かなかった理由とかは、考える必要ないかな?
B:指輪だと思ってた
A:指輪?
B:料理に邪魔だろうから。
A:そうか、そうだね。確かに。なるほどね。
<緑の傘9>
「勘違い」

さぁ、集まりましょう
砂漠へ、これを持って
そうです、草の色の傘
さぁ、差しましょう
宇宙から見たときに見た誰かが
きれいな星だと勘違いするように

嘘かどうかはどうでもいいのです
見た目の問題です

ほら、こんなに美しい星です
だれか、星を交換しませんか?

B:ああ、いいね
A:おお、いいね
B:一行目はなんだろう?
A:これにはたぶん、少なくとも二種類の意味があると思う。ひとつは、星の交換相手に、美しい星と勘違いさせるってことで、もうひとつは、こういう行為で見た目だけを美しくしようとする行為が勘違いだと言っているんじゃないかと思う。
B:解釈としては題、でいいのかな?
A:そうかな。位置づけ的には、そうだね。
B:タイトル競作には、題をつけないから。メタな思考だけど、これはわりと新しい人の作品なんじゃないかなあと邪推。
A:そういうルールは知らないけど、しかし、タイトルも含めて作品、という考え方もできなくはないでしょ。
B:意味に関しては、前者しか思いつかなかった。後者も考慮すると、案外に、深いね
A:ね。
<緑の傘10>
 青空なんて、大昔の映像やCGでしか見たことがない。空を覆うのは、紫色と茶色の混じった、毒々しい雲だけ。
 かつて人類が環境破壊の限りを尽くしたため、今では地球をこの色の雲が包み、人々は比較的毒性の低い場所以外では暮らせなくなった。
 気象庁が降雨を認識すると、街は巨大な緑色の傘に覆われる。薄く膜状に張り巡らされたビームが、放射性物質や一酸化炭素、亜酸化窒素などから街を護るのだ。見上げると、空は雲の色とビームの緑色が混じり合い、なんとも言えない気色悪い色になる。
 あいつは常々、『青空が見たい』と言っていた。門番が街の外壁を厳しく見張っているのに。僕らは内心、あいつを莫迦にしていた。
 ある日、あいつは消えた。主を失った部屋の壁には、いつもの口癖が書かれていた。
 誰もが忘れかけたころ、あいつからメッセージが届いた。真っ白な分厚い氷に覆われた大地。僕らの知らない、雲ひとつない空。
 残念なのは、そのメッセージがデジタルで送付されていたことだった。画像はJPG形式で保存されていた。

B:よく分からない。画像がJPG形式だと、開けないってことなのかな?
A:作り物だった、ってことを言いたいのかもよ
B:おお、なるほど!!
A:「大昔の映像やCGでしか」とあって、たぶん、CG技術のあたりは過去のものなのかもしれない、とか。
B:なるほどね。つまり、友人の見た青空はリアルだったのかもしれないけれど、JPGで保存されてしまった瞬間に、それは大昔のCGと大差なくなってしまった、と。なるほどねえ。上手いね。
A:そう読むのか
B:え、違うの?
A:いや違うことはないだろうけど、前にBが言ったように、読み方は自由だろうから。
B:意味深だなあ。はっきり言えよー
A:意味深というか、まとまらなくて。ええとね。青空を見たがっていた友人は見たいあまりに、どうにかなってしまった、ということで、大昔の映像で見たことある青空の画像が送られてきた、ってだけなのでは、とか。
B:残酷な読み方だね
A:送られてきた青空の画像に、友人自身も写っていると最初は想像していたから、作ったのかな、と思ったけれど。
B:まあ、確かに主人公視点では、送られた画像が本物かどうかの判別はつかないけれど、それはないんじゃないかな。
A:まあ、残酷かも。
B:そうだとしたら、友人が狂うという伏線が敷かれるはず。
A:部屋の壁に口癖が書かれていた、というのは、それに当たらないかな。
B:そうかなあ。とりあえず、結末の解釈は置いておいて、世界観について話したい。
A:うん。
B:この終末観は実にステレオタイプ。世界が滅亡して、人々がドームに閉じこもっているというのも、その中の人たちが青空を見たいと嘆くのもありきたり。また、全編が説明口調で、少し辟易。もう少し行動で主人公の内面が描けるんじゃないかな
A:その通りだと思う。「気色悪い色になる。」までと「あいつは常々」からが、最初は完全にバラバラにしか見えなかった。
B:そうそう。『青空が見たい』から、輝きだすよね。俄然、面白くなる。前半は、文脈無視してオールカットでいいんじゃないだろうかってぐらい
A:そう。後半だけで良いとか、思わなくもない。
B:まあ、そうなると、緑の傘がどこにもないけどね。
A:でも青空が見たいというテーマで書いているなら、緑の傘はどっかで出てくるでしょうね。
B:どうでもいいけど、CGが半角で、JPGが全角なのは、ケアレスミスか??


B:では、集計結果を見てみますか。
A:そうしよう。
B:ああ<緑の傘10>はフルヤマメグミさんじゃない。
A:おお本当だ。今度聞いてみようか、どういうことなのかと。
B:そうしよう。と言うか、<緑の傘8>が低すぎる件について
A:これで低すぎるか?
B:低すぎるよ。皆、分からなかったんじゃない?
A:かもね。分からないと、なんか茫洋としてる印象だからね。
B:<緑の傘9> は何故か、逆選に評が集まったね。
A:逆選かな? ふつうに、次点とかが多くなるのかと思ったけれど。
B:そうそう、むしろ次点かなっていう作品だよね
A:ねぇ、どういうことなんだか、逆選の意味が良く分からない。
B:まあ、でも、Aの指摘した、勘違いの二つ目の解釈を採れば、逆選に推したくなる気持ちも分からないではない。
A:そういうもんなのか、逆選って。
B:さあ。
A:<緑の傘7>は? 地味すぎた?
B:地味だってー
A:地味だけど良い話だと思ったんだけどなぁ
B:右の耳から入って、左の耳に抜けてしまうような軽さが命取り。次点はいくらか貰えるかもと思ったけどね。
A:そうか、そうなるか。次点がひとつくらいは、とは思ったね。
B:うんうん。
A:そんなとこかな。
B:では、また、明日。
A:また明日。
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2006年07月05日

緑の傘編(03)

<緑の傘11>
 青い世界に住む人は、なにからなにまで青ずくめ。なにより青が大好きで、なにより黄色が大嫌い。だから黄色い国との国境に、青い大きな壁を作った。そんな彼らがあるとき見たのは、ひとりの少女。青い服に青い日傘で、ゆらゆらと壁の上を歩いている。彼らはその「青」に拍手喝采した。

 くるり。

 ところが少女が向きを変えると、少女の服は黄色くなった。彼女の服は半分が青で半分が黄色だったのだ。怒った青い人々は青い石を少女にむかって投げつけた。黄色い人々も同じようにしているのだろう、青い壁を越えて黄色い石も飛んできた。

 くるくるくるくる。

 少女は傘を回す。青と黄色に塗られた傘は、青い石も黄色い石もはじき飛ばし、回りながら緑色に輝いた。彼女は走った。青い人も黄色い人も、わあわあ叫びながらどこまでも緑のあとを追いかけた。

B:これは何処までリアルなんだろう? 青と黄色を素早く回転させると、緑に見えるの?
A:さあ? 知らないけど、別に何も面白くない話だと思う。
B:うん。「だから何?」系だね。
A:こういう世界を用意するなら、読者に想像の余地を残してほしいと思うね。余地というと多少違うかもしれない。想像を喚起するような仕掛け、かな。
B:どちらかと言うと、物語が欲しい。現状では舞台を提示しているだけで、そこから始まる物語がない
A:そうそう。舞台の描写に終始しちゃってる。
B:語ることがない
A:ないね
<緑の傘12>
たくさんの旅人が、そこで足をとめました。坂道の途中に一本の木があり、豊かに葉をつけた枝が四方に伸びています。幹の横には、古びた椅子が二つ並んでいました。
木の向こう側は、なだらかな斜面です。西に傾いていく太陽を、ずっと眺めていることもできます。
ある時は痩せた青年が、ある時は白い髭の老人と美しい娘が、こんもりとしたした木に包まれるようにして休みました。野良犬がまるくなって眠ることもありました。
木は、その場所がとても好きです。そして、人や動物が大好きです。次にやってくるのは誰なのかを、とても楽しみに待っています。
こうして木は、今日も腕をひろげ、何かをまもろうとするかのように、静かに立っているのです。

B:これは輪をかけて物語が欠如してるね。
A:まあでも、こっちの方がまだ面白い。
B:そうかなあ。どこが面白かった?
A:前のは、非現実の中で、結局は青と黄色を混ぜると緑になる、と現実的なことを言っていただけだったけれど、こっちは現実的な描写を続けて、最後に木を擬人化して非現実感を演出してるから。
B:擬人化と言っても、「腕をひろげ」ているぐらいじゃない?
A:「何かをまもろうとする」というのは、作中人物の視点での擬人化だけど、それもコミで。
B:そうだけど。「だから何?」と言えない?
A:言えるだろうね。ただ、時間が経過する感じがするんだよね、木とかだと。
B:ああ、確かに。
<緑の傘13>
試験管の底に小さなマリモ。
リモコンを覆う紫のラバーケース。
シヴァ神が飛ぶ姿の細いタペストリー。
全部、啓太が置いていったものだ。
啓太は今月に入って、突然いなくなった。

梅茶漬けをかき込んで、響子は茶碗を置いた。
少し蒸し熱く感じたので、窓を開けた。
空は薄曇で、肌に涼しい空気の感触がした。
響子は冷凍庫から、マカデミアナッツチョコレートの箱を出し、
漆塗りのテーブルの上に置いた。
中から、一粒つまんで、口に入れ、
チョコを舐め溶かしながら、マカデミアナッツを舌で転がした。
テレビ画面には、潰れた部屋が、湿気をもって滑っていた。
(私なんも悪い事してないのになあ)
響子は溜め息をついて、座椅子に背をもたれて、体を伸ばした。
天井からは、カエルの顔がデザインされた緑の傘がぶらさがっている。
この傘を差して一緒に散歩したのは、先月末の事だった。
わざわざ雨の中を散歩して、新宿の高架橋の下ふたりで、
セブンイレブンで買った豚串を齧った。
思い出していると、泣きそうになってしまうので、
響子は溜まっていた洗濯物を片付ける事にした。
洗濯機を回して、座椅子に座り直し、ぼーっと、
窓に垂れたサカサクラゲの風鈴を見た。
「カリッ」
裸になったマカデミアナッツを、奥歯で噛み潰した。

「ピーッ、ピーッ」
洗濯機の終了アラームが鳴った。
響子は立ち上がり、マカデミアナッツチョコレートを一つ、
クワイの描かれた小皿に乗せ、啓太の遺影の前に置いた。
その横には、ヨガ体操をする市松人形が滑稽な格好をしていて、
それを見ると響子はいつも、ニヤニヤしてしまう。
啓太は本当に変なものばかり集める。

B:なにこれ。ラスト四行がなければ駄作なんだけど。
A:うん。
B:遺影という単語が出てきた瞬間に、それまでの無粋で冗長でくだらない日常描写が色を持つよね。中々、素晴らしいと思う。
A:そうなんだよね、遺影ときて、そのあとにニヤニヤだから、最後のあたりのインパクトはある。テーマ的なところを言えば、緑の傘がその他のガジェットに埋もれちゃってるけどね。
B:そうだね、その点はちょっとマイナスポイントだね。クワイって何?
A:クワイ? さあ? サカサクラゲもなんとなくしか分からないし、シヴァも名前しかしらないよ。飛ぶ姿のイメージは持ってない。まあでも何か変そうなものだとは分かる
B:シヴァ神はむしろ片足上げて踊っているというイメージ。まあ、分かりそうで分からないラインを狙っているのかも
A:これもどっちかというと「だから何?」系かな?
B:そうかな。作品の中で物語と言うか、作者が見せたいことが完結しているように思うけれど。
A:そうか。日常的で、地味な印象だからかな、なんか特に印象深くは感じなかった。
<緑の傘14>
「雨、止まないね。先生と一緒に帰る?」
 お昼ごろから降りだした雨につま先をぬらしながら、小学校の校舎の庇の下で膝をかかえ、お母さんが迎えに来るのを待っていた。
「ねえ、傘を持ってないんでしょう?」
 みどり先生はふわりとしたスカートを片手でおさえた。
「先生ね、昔、男の子とこんな風に並んで座りながら、お天気の話だけで何時間も過ごしたことがあるのよ。とても、懐かしい」
 雨の中を一生懸命に急いで来るお母さんの姿が見えた。声をかけようとしたけど、お母さんのびしょ濡れの服は、お仕事用の真っ赤なミニスカートだった。立ち上がって、みどり先生の腰に手をそえた。
「なぁんだ、やっぱり、先生と帰りたいのね」
 差し出された先生の足の甲にキスを、目を背けながらすると、その細い足首をつかみ雨の中へとび出した。先生の身体を振り上げ、さっと、雨空にスカートを広げた。

 傘を差して走り去る息子の背中を、母は慌てて追いかけた。

B:うーん。やりたいことは分かるし、挑戦は認めなくもないけれど、いかんせん下手。見せ方が上手くないなー。
A:もうちょっとだね。おお、そうか、とは思ったけれど。お母さんがさして生かされていないようだし。
B:最速、四行目で落ちが分かってしまうのが欠点ではないかと思う。驚きがすべての作品であるがゆえに致命的
A:ああ、テーマからすれば「みどり先生」は確かに。そういえば別に先生でなくてもいいような。
B:仮に見抜けなかったとしても、最後の見せ方はあまり上手くない。もっとミスリードを効かせてほしい。別の何かが緑の傘であるかのように読者の目を背かせておいて、実はそうではなかった! みたいな。
A:かな。もしくは、あっさり「みどり先生」が緑の傘だと言ってしまって、先生と主人公の関係をもっと書くとかね。
<緑の傘15>
 これは道に迷ったというところうまい具合に現れた交番を覗くといきなり
「あ、いかんキミ、そんなの持って」
 と言われた。
 たたんだ傘をばさばさ振ると雨粒が散る。
「ミドリちゃんが出る」 
 おまわりさんがワッハハ笑った。
「え、何がミドリちゃん」
 と背後から人が現れ
「ホラその緑の」「あー」「清水くんちは酒屋で」「酒持ってきた」「さすが」「今はコンビニだけど」
「刺身持ってきた」魚屋から乾物漬物おでん文具八百屋主婦教師サラリーマンおねえちゃんが次々と登場し飲んで酔っての大宴会。
 諦めて交番を出ると
「ミドリちゃんの」「緑の」「お気に入り」「かくされ」「死んで」「いじめられ」「傘持つと」「出る」「やられる」「ぼくたち」「わたしたちは」
 てんでばらばら口にしだすや声を揃えて
「ミドリちゃんが嫌いです」
 ワッハッハ。
「キミごと始末するコトとなりました」
 目のどんよりした人間が首をにょろと伸ばしたか伸ばさなかったかとにかくわらわら追って来るので荷を放り林に逃げ雨の下うずくまっていたら捨てたはずの傘を差し隣りに座った女の子が
「えへへー、あいあいがさ」
 あ、かわいい、と思うが傘から流れ落ちる薄赤い雫をどうしたものか、一緒にエヘヘと笑う。

A:相々傘っていいよね。
B:相愛傘はいいけど、これは無理。
A:ブラックだねぇ。
B:なにがいいの?
A:いや、この話とは関係なく、普通に。
B:いや、相愛傘が、ではなく。この作品が。
A:おっと失礼。
B:何がいいか分からない。
A:ホラーだと思うけど。
B:ラスト一行がなんとなく恐い気はするけれど。
A:はじめ、ただの怪談みたいだった「ミドリちゃんが出る」というのが、「ミドリちゃんが嫌いです」と「ワッハッハ」で一転、人間の感情の怖さが出てくる。ここで宴会との対比で怖さが際立つのも良い点だと思う。そのあとさらに一転、ミドリちゃんが復讐を遂げる? という感じじゃない?
B:あ、なんとなく……。分かりづらくない?
A:文の読みにくさも相まって、ちょっと分かりづらいね。
<緑の傘16>
 引き結んだ口は弱々しい。ルージュの色が泣いている。目もとを隠したひさしがさらに深くなったのは顎を引いたからではなく、肩を落としたから。
 彼女は力なく背を向けた。紡ぐ言葉もない。
 雨。ぽつり。
 僕は一人で傘をさす。彼女には、もはや笠のようにしなだれたそれがある。かつてより随分苔むした。
 ふと立ち止る彼女。小さく肩を揺らした。振り返らない。僕も肩を揺らす。
 残っていた胞子が少し肺に入ったから。
 彼女も、そうなのだろうか。
 強くなった雨脚が、僕と彼女をそれぞれ閉じた。
 僕は吸い込んだ胞子を感じながら、彼女との思い出に浸る。浸れば浸るほど、僕は苔むした。やがてぐずぐずと崩れ苔だけになるだろう。
 そこに残った傘を、彼女は拾ってくれるだろうか。

B:これも読解力を要するタイプかな? さっきのよりは好き。ただ、これ。言葉の選び方が少し下手だね。最初の二文と同じペースで読むと三文目からいきなり狂わされる
A:読解力を要するのか、説明不足なのか、話が良く分からない。
B:一文一文は考えられているけれど、通して読むと不連続。なので、読みづらさが助長されてしまっている。その点がざんねんだと思う。
A:そうだね。各文には面白い表現がたくさんある。
B:「雨。ぽつり。」いいね。ラスト一文も哀愁漂う。
A:いいよね。「僕と彼女をそれぞれ閉じた」とかね。しかし、胞子とか笠とか、そのへんは何を言っているのか、良く分からないな。
B:ううん、分かりそうで分からない
A:そのあたりが、読者に届かないから、ちょっと惜しいと思う。
B:確かに。


B:では集計結果でも見ますか。
A:<緑の傘11>にこんなに票が集まっているのはだなぁ。
B:確かに。物語の欠如が気にならない人なんじゃないだろうか。
A:情景としてもさして面白くないと思うんだけどな。色混ぜただけじゃん。
B:表現に光るところも感じられないような。テーマも処理できてないしね。
A:ねぇ。逆に<緑の傘12>あたりはもう少し票があっても良さそうな気がする。
B:いや、こんなもんじゃないかな。
A:そうか。
B:<緑の傘13>は集計結果を見れば、いかにも逆選向きな作品だね。
A:まあ未だに私には逆選がどんななのか良く分かってないけれどね。
B:<緑の傘14>はいくら次点でも入りすぎじゃない? この程度でいいのかと思う。
A:どういうこと? この程度でって。確かにこんなに票が集まるのは不思議だけど。
B:いや、だって<緑の傘14>に次点をあげるぐらいだったら、もっと他に次点をあげるべき作品があったじゃない。今までに。
A:あった。いろいろと思い出せる。何の程度のことを指して、この程度、と?
B:うーん、作品のレベル?
A:ああ、了解。
B:<緑の傘15>は不可解。読解力が足りていないだけかなあ。それとも分からない作品に正選を放出しちゃっているだけなのかな。
A:これは確かにね。こういうのは逆選じゃないんだね。ますます逆選が分からない。
B:これこそ逆選な気がしないでもないけどね。
A:ねぇ。
B:<緑の傘16>は、まあ、分からなくもない。今までの傾向からして、正選がひとつやふたつあってもおかしくないような気がしないでもないけど。
A:むしろ正選と逆選に分かれるかと思ったけれど。
B:そうかなあ。これは逆選じゃないでしょう。けれんみがない。
A:けれんみ。はぁ、なるほど、分かるような分からんような(苦笑) まあ、こんなところかな。今日の中には、特に群を抜いて面白いと思ったのはなさそうな気がする。
B:<緑の傘13>がよかったよ。
A:今日の中では一番だね。
B:うん。テーマをスルーしてるけどね。
A:まあね。明らかな欠点がある話が多かったね、今日は。
B:「だから何?」系はもうお腹いっぱい
A:そうだね。言うこともないから、やる気が削られてくし。だったらやるな、って話かもしらんけど(笑)
B:いやいや、これは書く方にもっと考えてもらわないと。『何故、あなたは超短編を書いているのですか?』と「だから何」系の作者ひとりひとりに問い詰めたい
A:そのへんは確かに、作者さんたちに考えてほしいね。とまあ、今日はこんなところ?
B:じゃあ、また、明日。
A:うい。また明日。
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2006年07月06日

緑の傘編(04)

<緑の傘17>
 まったく世界は気の抜けた様。ぼくが退屈していると、色泥棒があらわれた。信号も機能しない、渋滞のひどいスクランブルで、カップルは皆手を離し、めいめいアサッテの方を向いている。犯人を退屈しのぎに追ってみる。実は一瞬、その後姿を認めたので。逃すまい、と眼鏡をくいっと上げ。
 コーヒー香る、オープンカフェを過ぎる。
 デパートを上から下まで。なめらかなリズムが店内に響いてる。
 たどり着いたのは遊園地。歴史も古く、小さな小さな。客足はまばら。平日だからよけいに閑散として、ああ、祝日はもうないんだった。けれども、それでも何か。
 ああそうか。花泥棒。
 園内のそこかしこにあるうちの一輪を、摘みとり、そっと吹く。綿毛がふわふわ。
 いけない、雨か。のっぺらな空から、見えないが、気に入りのミリタリーシャツに染みて。冷たい。傘泥棒はとっくの事だから、屋根の下に逃れた。止むまでこうしてるしかない。
「良かったら、入る?」
 立っていたのは華やかな少女。傘をからりと振るその下で、いつの間に、ぼくの眼鏡を掛けてくすりと微笑む。
「おんなじ色ね」
 盗まれたのは言うまでもない。

B:惜しいかな
A:かな。
B:てっきり色を奪われたから、花が個性をなくし、だから花泥棒かと思ったのだけど。傘泥棒に同じ解釈を当てはめることはできないし。
A:最後の文が書きたいことだろうけれど、それまでが完全に別物になっているような気がする。
B:筆致は好きだけどね
A:筆致はいいよね
B:色泥棒から花泥棒までの前半が、とてもいいと思う。
A:そう。むしろそっちが良い。テーマとは関係ないけれど。無理して傘につなげようとしているみたいだね。
B:そうだね。テーマが色に関係していたら、良かったね。……違うか。グリーンの傘ではなく、緑さんの傘、ということなのかな?
A:色泥棒=花泥棒=傘泥棒=華やかな少女、だよね?
B:分からない。
<緑の傘18>
 割の悪い仕事だ。
 予感に捕われた彼は、目の前の建物を見上げる。
『M耳鼻科医院』、と書かれた看板がまだあったが、廃業して三年はたっているはずだ。
 依頼人はここにいるはずなのに、人の気配はない。
 悪い予感は最初からあった。依頼人は彼の昔馴染みで、余計なことを知りすぎているのだ。
 空は曇っていたが、そこからは何もわからない。晴れた日がいいと言う人もいれば、雨を望む人もいるのだということを、彼はそのキャリアのなかで学んでいた。けれど、二人が同級生だった昔、彼は依頼人自身からその答を聞いたはずだった。
 鍵がかかっていたら帰ろうと決めたのに、ガラス戸はすんなりと奥へ開いてしまう。
 玄関は薬の匂いがした。
 壁の張り紙の指示に従いスリッパに履き替えた彼は奥へ進み、薄暗い部屋で探していたものを見つける。そして彼は、二倍になった仕事を見事な手際で片付ける。

 再び玄関に戻り、屈んで靴を履いたとき彼は、忌まわしい心持ちに捕われ、ふと顔を上げた。緑の傘。そこに克服すべき恐怖があるかのように、おもむろにそれを手に取った彼は、ガラス戸を抜けて表に立つと、ボタンを押し込み、スプリングを開放した。
 傘はあっけなく開き、そうしてからむしろはじめて、雨が降りだしていたことに気付く。
 やっと思い出す。あいつは雨を望んでいた。
 傘の力は色褪せ、まだしばらくは、彼のキャリアは安泰だろう。

B:話は置いておいて、文章が下手。「目の前の建物を見上げる」や「看板がまだあったが、廃業して三年はたっているはずだ」など。
A:脚本的?
B:例えば、「予感に捕われた彼は、目の前の建物を見上げる」を見てみよう。一行目の心情は論理的な思考から出された答えだろうから予感とは異なる。また、『M耳鼻科医院』という看板を見上げる彼が、予感に捕らわれている必然性がない。「目の前の建物を」と「見上げる」も連動していない。
A:なるほど。
B:「看板がまだあったが」とあるけれど、ここは「看板はまだあったが」とした方がスムーズだし、そもそも「廃業して三年はたっているはずだ」と過去形なら「まだ」は不要。とにかく全編に渡りこんな感じで、文章が鼻について読みづらい。錬度が足りない。たかだか五百文字なんだから、もっと書き込めと思う。
A:そうだね。そういうところは、他にもあって、廃業して三年もたっているのに薬の匂いがするのかとか、そういう場所にわざわざスリッパに履き替えて入るのか、とか、作者に状況が想定できていなくて、さらに読者にそれを伝え切れていないと思う。
B:空への言及も唐突で物語に絡んでこないように見えるし、結末も突然。
A:あと、唐突にボタンとかスプリングとかあるけれど、傘が必ずしもそういう仕組みのものだけではないことを考えると、唐突だと思う。
B:話の筋に関してはどう?
A:まあ以上のような文だから、良く分からない。ハードボイルドっぽいことやりたいんだろうけれど。
B:よく分からないよね。
A:作者にとっては書きたいシーンというか、想像できているのかもしれないけれど、書けてなければ、何の意味も持たないよね。
<緑の傘19>
 お散歩には生憎の、俄な雨でありました。
「ごらん、ちょうど良い物がある」
 お父様は筋の浮いた太い腕を伸ばし、波紋の広がる水面から、ぶっつり私共を手折られました。
「ぞうのみみぃ」
 柔らかな縁をひらひら揺らし、嬢ちゃんの小さな足が泥をはねてゆきます。坊ちゃんは茎から滴る雨を舌に受け「苦いや」と顔をしかめます。お二人の艶やかな髪に光る雨粒を手拭いで払いながら「象鼻酒なら頂くが」と、お父様はお笑いになりました。
 なにせ急拵えの雨除けです、私共は幾度もおつむりから逸れてしまいました。お玄関へ着く頃には、お三人はすっかり濡れ鼠の有様で、お母様は目を丸くされました。
「あら大変、葉っぱのお化けが雨に祟られた」
「これでも、蓮に随分助けられたのだよ」
 白い割烹着のお母様は、三和土に投げ捨てられた私共を、前栽の蹲にそっと挿してくださいました。小さな熱い手にきつく握られ傷んだ茎に、澄んだ水が染渡ります。ほっと身を寄せ合った私共の陰へ鮮やかな若緑の小蛙が、心細げに這い寄りました。空はなお暗く、雨足も激しくなってまいります。
「あと、もう一働き」
 私共は互いを励まし、小さな雨の落とし子へ萎れた葉を深く差し掛けたのでありました。

A:情緒があって、良いね
B:緑の傘と聞いて最初にイメージしたのが、トトロが持っていた葉っぱの傘。きっとそのイメージに通じる作品があるだろうと思っていたけれど、テーマ直結で平凡なところに落ち着いてしまうだろうなと思っていた。が、これはいいね。テーマ直球でありながら、投げられているボールが野球とかじゃなく、蹴鞠
A:蹴鞠ね。まあ言いたいことはなんとなく分かるよ。そうだね。多少、文体が読みにくいかな。演出としては効いているんだけど。
B:完成度が高いから、かえって言うことないね。
A:そうだね。良くできているね。
B:読みづらさは愛嬌でしょでしょ。
A:それも魅力のひとつか、すごいね。
<緑の傘20>
僕は緑いろに染められた傘が好きだ。雨の日はもちろん、晴れの日や曇りでさえも差していたいと思う。
夜空の星をながいこと見上げていると空間の感覚があやふやになり、まるで自分が逆さまにぶら下がったまま星を見おろしているような気持ちになることがあるが、頭上に掲げた緑いろの傘を見あげる僕も、それと異なるところはなかった。
天体の社交性まで見抜く慧眼と、ならんだ靴を乱すことのない良識を備え持つ早熟な物理法則は、僕が緑の海へ呑みこまれるのを止めたりはしない。
人々は落涙を恐れる。しかし重力は涙をこらえる者ほどよろこんで裏切るのだ。時計の正確さが、自然の偶然が光速を乗りこえて作った平行時間軸に否定されるように。
僕はりんごの虚ろ言の皮を剥いだ。反された手のひらから離れ、奇跡的な飛行能力など手にすることもなく(なにせ僕はスカートをはいていないから)、しっとりと湿った草原の土に、頭頂部から落下する。
僕の首が折れるひときわ大きい雨の音が寝ぼけ眼のふきのとうを目覚めさせるだろう。

B:いや、これは駄目でしょ。つい認めたくなってしまうけれど。
A:非常に読みにくい
B:漢字が多いわりに句読点が少ないよね。そのわりに変なところはひらがなになっていて、リズムが掴めない。
A:行ごとに別のイメージを要求されるようで、なんだかまとまりが感じられない。
B:そうそう。「人々は落涙を恐れる」の下りなどは光っているのだけれど、すぐに別の話になってしまうから広がりがない。勿体ない。
A:それでもって、結局は「だから何?」で終わっているように思う。いや、そうでもないか。
B:これは「だから何?」じゃないでしょう。そもそもにして世界観という舞台がないから、そこから物語が始まりようがない。したがって、言うなればむしろ「何で?」系。まあ、でも、この作品の場合「何で?」に対する答えは、明確だと思う。意味なんてないでしょう雰囲気や語感を楽しむだけだと思う。そのわりに読みづらいけど。
A:うーん。はじめは、傘と僕との上下関係の反転の話で、それが、傘をはさんで反対側に僕の役割が反転している、ということかな。僕→雨、ということで。
B:そうかもしれないね。
<緑の傘21>
 足もとに犬がいるのが見えていて、だんだん近付くと、緑の傘が時々くるっ、くるっと回っているのがわかった。追い越し際に犬をちらっと確認する。よし。犬はいい。いつか飼いたい。いつか、と時々思いながらそのまま終わるのではないかと思うようにもなった私は傘を持っていず、小雨のぱらつく土手を急ぐ。左右に雑草が強く生い茂っている。本当によく茂っている。花まで咲いて、暗めの空をうつしている。既にペダルをこぐ足がだるくなっていたが、土手を下りる前になだらかな上り坂があった。坂を上ったらそのまま土手を進みたいような気になり、気になっただけで私は土手を下りている。下りながら今度の日曜はどこかへ、例えば隣県まで出かけようかと考える。ぱらぱらと雨は止みそうで止まない。週末も雨だろう。週間予報では雨だった。「イラッシャイマセ、コンニチハア」と迎えられたのか追い出されたのかわからない、多分どちらでもないコンビニに入ると、透明なビニール傘が売られていて、私は緑の傘が欲しいんだという気がして、それは嘘だと思った。日曜は出かけようと決めて、それをひっくり返すべきかと悩みながら、百三十八円の甘そうなミルクティを手にとった。

B:よし、オッケー
A:不明確な感じを演出しているのだけは、分かったけれど、オッケーか?
B:よし、説明しよう。
A:聞こう。
B:まずは、この作品をいくつかの要素に分けるところから始めよう。ひとつは見えるようで見えない場景。ペダルという言葉が出てくるまで主人公が自転車に乗っていることを読者は知らされていないし、コンビニに入るときに自転車を降りるという記述はない。この点から、かなり文字が削られていることが分かる。ひとつは改行がないこと。ひとつは句読点の位置も変なところにあるということ。ひとつは描写がころころ変わること。以上から類推されるのは、すべてが一続きの物語で、そしてここで描かれているのは主人公の思考だということ。下手な言い方をすると思考垂れ流しなのだけれど、この作品がどうしていいかと言うと、リアリティがあるから。確かに我々はときに、犬を見て「飼いたい」と思うし、直後に「でも結局は飼わないよなあ」と思ったり。自転車に乗っている最中は、あまりそのことを意識せず、コンビニに入るため自転車を降りるという動作も無意識のうちに行っている。とても忠実だと思う。人間の思考に。そこが素晴らしい
A:一続きの主観だというのは分かったけれど、曖昧さがリアリティかどうかには少し悩むなあ
A:「イラッシャイマセ、コンニチハア」なんかは、むしろ意識しないでしょうし、意識するなら温度とか空気とか、そういうものが欠けているんじゃない?
B:いやいや、きっと店員の声が刺々しかったんだって。だから一瞬だけ意識して、すぐに思考が次に移ってしまっている。
A:そうなのかな。「それをひっくり返すべきか」というのは、何だろう。
B:まあ、でも温度はあるかもしれない。店員の声より「涼しい声が私を包む」とかの方がいいね。
A:かな。まあそうか、オッケーか。
B:「それ(=日曜は出かけようと決めて)をひっくり返すべきかと悩みながら」じゃないのかな。出かけようかどうしようか迷ってるんだって。
A:「べき」は変じゃない?
B:いやいや、だってそれまでずっと直前の思考を否定するのを繰り返していたじゃない。だから、主人公のスタンスに則るなら「べき」ということだと思うよ。
A:むしろここで、ここまでの曖昧さをわざとやっていたような印象が出るように思うんだけど。
B:え、曖昧かなあ……
A:曖昧というか、すぐに否定するから、そういう印象になる、というか。無意識じゃなくって、わざとそうしていたような気がする
B:ああ「結局、お前はどうしたいんだよ」ってこと?
A:いやいや、曖昧なのは、それでもいいんだけど。
B:うーん、Aの言っていることは、よく分からないけれど、優柔不断な人はこれぐらい曖昧でやることに矛盾があると思うよ。
A:決められない、ってことでは、そうだよね。でも「ひっくり返すべき」で突然、能動的になっているように思うんだけど。
B:傘を持ってないから急ごうとしているのに寄り道しちゃうし、コンビニに入って傘を見てるのに飲み物を買ってしまうし。「それをひっくり返すべきかと悩みながら」だから、結局は悩んでない?
A:そう。だから、優柔不断にするようにわざとしていて、それを自覚しながら悩んでいるような
B:そんなもんだって。優柔不断気取りの自意識過剰なんだって。いーちゃん的じゃない。
A:悩むためにわざと直前の否定をしている感じ。まあ、いーちゃんが何か知らないけど、優柔不断気取りの自意識過剰か。そうだね。


B:それじゃあ、集計結果でも……<緑の傘17>は正直、意外。
A:そう?
B:500文字の心臓では、こういう作品にこそ正選をあげちゃいそうなところがある。
A:そうなんだ。謎の団体だね、500文字の心臓。
B:<緑の傘18>は、まあ、いいとして、<緑の傘19>は、ちょっと少ないんだけど! どういうこと、これ!!
A:ほんとだ。酷すぎる。あまりにも見る目がないというか、なんというか。
B:酷い!
A:ね、酷いよねぇ。
B:酷い酷い。いい作品を評価せずに、何を評価するというのだ。ぷんすか。
A:<緑の傘20>と<緑の傘21>はまあ、順当、かな。
B:<緑の傘20>はいいとしても、<緑の傘21>は少ないよ!
A:いや、こんなもんでしょう
B:くぅっ、正選に二点入っただけで妥協しないと駄目なのか……。
A:むしろ正選減らして、次点を増やせばいいくらいじゃない?
B:いやいやいやいやいや、そんなことはない。正選、四点ぐらいあっていいよ。
A:そうかな。リアリティのある主観、てだけで、そこまで評価されるものかな。
B:これは、だって文学だよ? 町田康に迫るものがあるよ。
A:いろいろ知らなくて悪いけど、町田康も読んだことないや。でもまあ、Bがそこまで言うなら、そうかもね。
B:じゃあ、今日はこんなところで。四日目にして、ようやく半分か。
A:じゃあ、また明日。
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2006年07月07日

緑の傘編(05)

<緑の傘22>
 追いかけっこに疲れたのであっくんと一緒に木蔭で休む。ぬしさまと呼んでいるその木は、あっくんと二人、向こうとこちらで手を繋ぎ合ってわっかをつくろうにも抱えきれないほど太くて大きい。葉っぱは緑色が濃くて奇麗だ。幹は特別ひいやりとしている。
 ぬしさまの下は静かで涼しい。
 追いかけっこの途中で、あっくんとキスをした。瞼を閉じたら陽射しに射られた。上瞼と下瞼が合わさった瞬間、じゅッと熱がはじけた。重ねた唇にも電流が走ったみたいになって、吃驚した私たちは慌てて体を離した。極まり悪さをごまかすように力いっぱい追いかけ合った。
 並べた膝が触れ合ったから、ぬしさまの下でもう一度、キスをした。最初はおずおずと、それからひしひしと。
 ぬしさまの下は静かで涼しい、閉じた瞼に熱ははじけない。唇の温度は嘘みたいに心地よかった。うっすりと目を開けると、触れ合った膝にぬしさまの影。

B:完成度が高いと思ったけれど、二点だけ気になった「瞼を閉じたら陽射しに射られた」と「極まり悪さ」。前者はかなり大きい木のようだけど、陽射しが葉の隙間から突き抜けてきたってことかな? 後者は「極まり悪い」っていうの? ……辞書を引いてみた。言うみたいだね、極まり悪い。
A:言うだろうけど、この字面からだと「極悪」を想起してしまうから、なんだか不似合いな気がした。というか、そんなに完成度高い?
B:え、感じないかな。なんだか読んでいて心がほんわりあたたかくなったよ。いい話じゃない。
A:いい話だし、綻びって点ではできているけれど、表現とかは特に普通じゃない?
B:「ひいやり」や「おずおずと、それからひしひし」あたりは、なかなか書けないでしょう。良作だと思うよ。
A:「ひしひし」は、まあ、そうかな。
<緑の傘23>
雨の日の朝、玄関を開けると河童が立っていた。
大きな葉っぱを傘代わりに差している。
何用かと聞けば、旅の途中で腹が空いたので胡瓜を分けて欲しいという。
私は快く家に上げると、胡瓜を三本と酒を用意した。
一升空く頃には河童も饒舌になり、これまでの旅の話をとめどなく語りだした。私はその興味深い話に耳を傾けて、時には笑みを浮かべた。
私と河童はまるで十年来の友人のように、すっかり気の置けない間柄になっていた。
夜が明けると、河童は礼を言って旅立っていった。
河童を見送った後、いつも誰彼かまわず吠える飼い犬が静かなことに気づいて、犬小屋を見に行った。
犬が、犬小屋の傍で横たわっている。
私は、しまったと呟いた。
犬は、尻子玉を抜かれていた。
私は呆然として空を見上げた。いつの間にか、雨はあがっていた。

B:失礼な河童だなあ……
A:なんでまた尻子玉を抜いていったのやら不明だね。河童だからというだけなのかな? あ、「誰彼かまわず吠える」からか。
B:よく相撲で勝負して、負けると尻子玉を獲られるとか言うよね。色々な説があるとして、キュウリと酒をただで貰っておきながら、そういうことをするのは、いかがなものかと思う。
A:それ以前に、吠えられてうるさかったんだろうね、きっと。
B:飼い犬の尻子玉をゲットしてから、物乞いに来るってどーよ?
A:失礼だね。でもまあ種族間の違い、か?
B:気に食わんなあ。
A:河童を使ったのが特徴というくらいの話かな。他には別に良くも悪くも感じないけれど
<緑の傘24>
 ああそう言えばあの色に銅色の骨が不自然だと思ったかもしれません。ぱらぱら水玉が透けて見えていました。傘の内側を眺めたのでしょうか、私は。
 変な話です。傘から流れた水滴がざあと、背の後で立てた音、そればかりが残っております。今その音ばかり聞こえます。ざあと。
 変な話です。日陰者などと自分を貶めた言葉を使うくせに目立つ色が好きでした。
 あの日、あの時、判っていただこうとは思いませんが、異界であったのです。
 Jの向こうに蛙の口が見えました。そこではじめて、私はあれが絡め取るものだと知ったのです。
 口が横ににいと開いた時に逃げ出せばよかった。遠い西の空の光輪にただ一時、目を奪われた隙に身体は絡め取られておりました。私は怖かったのです。
 腐った匂いのする菊でした。菊は緑の中で足を踏み鳴らしました。足元で水が緑を映しながらはねました。Jでしたか、菊でした。腐った色の汁を飛ばしました。あの色はなぜ、地面に落ちると赤く見えたのでしょう。ああ、傘ですか。では赤だったのですか、腐った汁が、赤い。変な話です。
 それで、私はいつ帰れるのでしょう。J? はい、存じています。何かあったのですか?

B:いいんじゃないかな。
A:どうでもいいんじゃないかな。
B:え、そうかな。まあ、それほど入れ込んでいる訳じゃないけど、少しは肩を持とう。最後の一行はよく分からないけれど、それまでの会話文で世界観を見せるという技法は面白いよ。Jと人物名が頭文字になっているところから、なんとなく作品がインタビューの記事風で、なんか変な雑誌に載ってそう
A:個々のガジェットを妙な書き方で魅せるという点では、良くできていると思うけれど、総合してみても、別に世界観は見えないと思う。
B:うん、そうだね。もう少し光るところがあれば、戦ったかもしれない。
<緑の傘25>
撃墜。そして仕事終了、空から落ちてくるのは緑のパラシュート部隊。次々に落ちてゆく。
落下点は公園だ。公園には多くの人々が居る。皆それぞれの理由があって来ているのだが、空からパラシュートが落ちてくると、あ、放射能がやってくる、気をつけろ、と言いながら一旦離れ、やいやいとか何か言いながら屋台で買った卵をパラシュート部隊へ投げつける。中には大層グロテスクな代物もあるのだが、パラシュート部隊はもう慣れてしまっているので気にしない。
それよりも彼らはサボタージュする気で満々だ。
そのまま彼らはバラバラに解散し、ある部隊員はマックへ、ある部隊員はモスバーガー、ある部隊員はサイゼリヤへ行こうとする。
一番目的地まで遠いマックへ行く部隊員はパラシュートを引きずりつつ、タクシーを呼ぶ。防護服を着たタクシー運転手に駅前のマック、と言うと運転手はへい、と言ったがなかなか車を発進させない。ドアが開きっぱなしなのだ。
お客さん、ドアを閉めてください、と運転手は言うが部隊員はなかなかドアを閉めない。
部隊員は空に広がる茸雲を見ていた。どうやら次の部隊は失敗したらしい。
公園の、観光客と思しき防護服を着た二人連れが代わる代わる茸雲をバックに写真を撮る。
お客さんそろそろ怒りますよ、と運転手が言ったので部隊員は相済みませんと言い車はマックへ。
もうじき雨は降るだろうがこの街は美しい。

B:いいじゃんいいじゃん。茸雲以降はちょっと現実味が出てきてしまってそうでもないけれど、それまではどこか浮世離れしている感じがいい味出してるんじゃない?
A:そうだね。「サイゼリヤ」は「ロッテリア」とかのが統一感があると思うけど。
B:確かに、この三つの中ではサイゼが浮いているね。ロッテにするんだったら、マック→ロッテ→モスの順がいいね。ファーストキッチンでもいいかな。……なんとなく妄想代理人のオープニングを連想するね。
A:そうかな。茸雲つながり?
B:うん、後は雨とか、にこやかに笑っているところとか。
A:この部隊員からは、どっちかというと表情が無いような印象を受けるけれど。
B:え、そうかな。部隊員も見ている人も運転手も、この得体の知れないいびつな世界観に沿うようにへらへら笑っているような気がするけれど。
A:見ている人は、へらへらしてそうだけど、運転手はせいぜい営業スマイルくらいだと思うな。まあ感じ方の個人差だろうけれど。
B:まあ、そうかもね。
A:逆に言えば、そこまで読者に踏み込む力は、この話にはないよね
B:ないけど、その代わりに軽さが生まれていて、その軽さがいいと思う。
A:だね。諦観めいた感じは良いと思う
<緑の傘26>
 もう何日も雨など降っていないのに、玄関に濡れた傘が置いてある。傘の色をあいまいに映した小さな水たまりもできている。「誰か傘を使ったの?」なんて、家族には訊けない。訊いたら、誰かが姿を消している気がする。

B:とくになし。
A:ないね。
B:少しを見せることで、多くを読者が想像してくれるのを期待している作品なのではないかと思うけれど、想像を許すだけの力に欠けている
A:雨が降ってないのに濡れている傘、と、訊いたら誰かが消えている気がする、というのが、少し見せていることなんだろうけれど、ここから想像するのは、せいぜい、何か水をよけるのに傘を使ったのか、ということと、気のせいじゃない、ということくらいで、これらを繋げて考えるような方向には想像が進まない
<緑の傘27>
 雨の日がいちばん好きな娘は、赤い傘を差して蓮の花咲く池のふちでカエルの合唱を聴いているときに、池の主である大フナ様に見初められて水の世界にやってきました。
 池の底で、娘と大フナ様はしあわせに、おだやかにすごしておりました。娘は大フナ様を愛していました。しかし、緑色の水面を見上げては、ときどき溜め息をつくのです。蓮の葉のすきまに、いくつもの小さな円が生まれては消えていきます。娘の好きな雨は水面で波紋を広げるばかりで、一粒も底までは届かないのでした。
 やわらかな泥の中で、娘は雨のにおいを、傘の上を転がる軽やかなリズムを、カエルたちの歓びの歌を思います。池の主の妻になった娘には、地上で雨を感じることはもうできません。雨の降る日は娘の溜め息が泡になって、いくつも水面にあがりました。
 ある日、娘が水面を見上げていると、丸い影がゆっくりと降りてきました。一枚の大きな蓮の葉の茎をつかんだカエルたちが泳いでくるのです。
「これは、大フナ様からの贈り物です。ゲコ」
 娘は驚いた顔で蓮の葉を受け取りました。大きな蓮の葉は、彼女の頭の上で広がります。まるで、大好きな傘のように。娘の顔に笑顔がひろがりました。
「あなた、ありがとう」
 照れた大フナ様は、尾ひれを揺らして答えました。

B:変わった世界観だけど「だから何?」系だよね、これは
A:「ある日」以降で一気にパワーダウンしたね。前半は、なかなか魅力的だと思う。わざわざ蓮の葉の傘を出さなくても、テーマは十分に書けているし、どうせなら、この世界らしい結末をもってきてほしいと思った。
B:そうかなあ。一行目は一文が長すぎだし、二行目で、いきなり「娘は大フナ様を愛していました」だなんて。わっけ、わかんねー
A:お伽噺的な構成ではあるから、特にそこは気にはならなかったけれど。
<緑の傘28>
むきになってあんなに日差しの強いジャングルを歩き通したりするからだ。
行く手を遮る下草や蔦をものともせずに猛然と進む彼女が、それでもなお頑なに差し続けていた白い日傘は、生命力に溢れた木々の色を捉えて離さなくなってしまった。

今も薄暗いアパートの玄関に、あのときの木漏れ日を乱反射し続けている。

B:これはちょっと面白いちょっと好き
A:うん。悪くないと思う
B:もう少し長くてもいいね。
A:かな。猛然と進む様子とかのあたり?
B:ショートショートっぽくしても、最後の一行があれば問題ないでしょう。
A:この最後の一行はいい感じだね。
B:ツンデレお嬢様と執事みたいな感じの話なんてどうよ?
A:なに、とつぜん?
B:いや、この話をもっと膨らませるとしたら
A:いやぁ、そのへんのディテールはいらないよ。彼女、ってだけで十分だと思うけど
<緑の傘29>
 傘の日続きでうんざりだ。けど雨を降らせず出歩くわけにはいかない。地球漂白化の影きょうあっ。路地から飛び出た少女に僕は吹っ飛ばされ雨を降らすのがおろそかになってしまったそのとき傘が閉じたままぶすり、腹を刺した。
「ごめんなさい。大丈夫?」と少女は言った。
「うーん」
 僕から傘を抜き、おんぶして、少女は来た道を引き返す。素敵なワンピースだなあ。汚れないかなあ。雨を降らせていないのに傘は僕たちのはるか上空でひらく。古い一軒家へ入ると少女は自分だけ靴を脱ぎ僕を玄関に寝かせた。
「目をつむってて」
 衣擦れの音。脱いだワンピースを僕の胴に巻きつけているようだ。遠ざかる足音。漂白化のせいなのか僕の目が霞んでいるだけなのか、下着と区別がつかないほど白い肌。
 目覚めたとき、少女は何も身につけていなかった。
「目をつむっててって言ったでしょ」
 僕からワンピースを取りあげる。傷はすっかり癒えていた。ワンピースにも少女にも染みひとつない。
「もしかしてそれは緑の傘で?」僕は尋ねた。
「これが最後の一枚」
 時間を確かめるまでもなく、少女も僕も、約束にはもう間に合わないだろう。まあいいさ。どうせ外は白い傘なのだ。

B:よく分からないけど、えろいから良し
A:まあ、他に取り柄が見つけられないし、そういうことでいいんじゃない。
B:書かれてある内容は、とにかく分からない。雨を降らせるとか、漂白化とか意味不明。でも、例えば一行目の「地球漂白化の影きょうあっ」は、語り手が独白している最中に少女と激突して「あっ」ってことでしょう? なかなか、上手いんじゃないかな。全体的にリーダビリティ高いし、好き。
A:最初は「地球漂白化の影」と読んで、なんのことか分からなかったよ。そんなにリーダビリティが高いとは思わないよ。
<緑の傘30>
 老人はあざやかな緑の傘を差して歩く。雨の日も、晴れの日も。
「どうして傘を差してるのさ?こんなにいい天気なのに」
と若者に問われて、老人は皺をさらに深くして笑った。
 次の春、老人はすでにこの世にはいない。だが、老人の歩いた道には色とりどりの花が咲いている。老人の歩みそのままに、小さな花がぽつりぽつり。
 花が途切れたところに、老人が差していた緑の傘はあった。柄には札が付いている。
「あなたの最期の花道、作ります」

B:もし、この作品が深読みを要するものではなく、そのままだとしたら、嫌い。
A:今のところ、深読みする要素が見当たらないし、私も好みで言えば嫌い。
B:キッチュに過ぎるでしょう。身震いする。
A:うん。やっぱり深読みする余地が見当たらない。それどころか、傘が緑である必然性すら、見えてこない
<緑の傘31>
傘がいっぱい並んでる。
赤い傘が欲しいのに
緑の傘しか置いてない。
かさはどいつも裏返し
雨水たまれば重たいし
ほねは骨なしこらえなし
雨水ちゃぽんと全部落ち。
丸々肥えた子供らは
首をはねてはお供えだ。
八月十五夜お月さん。
緑の傘は捨てられた。

B:縦読み?
A:え、縦読み?
B:いや。どこを縦読みすれば、意味ある文章になるの? とボケてみました。
A:ああ、びっくりした。私の知らない日本語がこんなにたくさんあるのかと思った、とボケ返してみよう。
B:もー! 人にギャグを説明させるなよう。思わず敬語になっちゃったジャマイカ!
A:とまあ、どうでもいいことを言うしかないくらい、どうとも思わない作品なんだと思うけれど。
B:ね。毒にも薬にもならん。
<緑の傘32>
 今日はわたしのためにお集まりいただき、ありがとうございます。
 17年間全力で戦ってきましたが、本日をもちまして、現役を引退することを決意いたしました。
 プロ生活2年目で初めて立った神宮球場のバッタボックス。痺れました。スタンド全体がわたしのために東京音頭を唄い、わたしのために傘を振り・・・もう一度ここに立ちたい。何度でもここに立ちたい。この景色を独り占めしたい。その一念が、今日まで現役を続けさせたと思います。
 できることなら、死ぬまでずっと神宮球場のバッタボックスに立ちたいのですが、それは叶いません。想いだけではプロであり続けることはできませんでした。
 ファンの皆さんには心から感謝をしています。この想い出があるから、これからの人生も生きていけます。願わくば、今度はわたしも一緒にスタンドで傘を振らせてください。
 今日は本当にありがとうございました。

B:意味がよく分からない。どういうこと?
A:引退の挨拶かな。緑かどうかは、野球チームを知らないと分からないような気がする。私には不明。
B:なんか深い意味がありそうな気配はあるんだよね。
A:どうだろうね。挨拶文としては、わりあいありがちな気がするし。
B:促音ー、じゃなくて。拗音ー、でもなくて。「ー」って、なんだっけ?
A:音引き?
B:まあ、コンピュータとかプリンタとか、「ー」をよく省略するじゃない。この作品ではバッターボックスの「ー」が省略されて、バッタボックスになっているように読めるけれど、実は虫のバッタなのかも。
A:ぬぅ、そうくるか。
B:調べた。長音というらしいね。「ー」は長音符号。
A:ここによると「東京音頭で振る傘は、緑(または青)のビニール傘もしくは球団が発売している傘が一般的であるが、特に決まっているわけではない。」だそうな。東京ヤクルトスワローズというチームの本拠地が明治神宮野球場らしい。
B:呆れた。今、一生懸命、語り手が虫なら神宮球場・東京音頭・傘は何かの比喩かもしれんと頭を捻っていたのに。まさか、緑の傘というテーマから、東京音頭を連想して書いただけの作品ってこと?
A:うーん。比喩だとしたら、明治神宮とか、東京音頭の歌詞とかにヒントがあるかな? そこまでフォローするのは面倒だな。
B:今、すっごいテンション下がった。
<緑の傘33>
 まっとうのにいっちょんこん。
 傘みたいな形やろと良雄さんがいっとった。やけん雨ん降ったらここに来ようち。
 ばってんひどか雨やと、葉っぱの間から、ぼたぼた水滴が落ちてくる。あんまり役にたたんばい良雄さん。しっとった?
 雨はざわざわふっとうのに、良雄さんはいっちょんこん。
 暗いけん眠くなってきた。
 
 シロ、シロ、起きんね。

 お母さんの声と匂いと手のひら。
 いつのまにか明るくなっとる。
 お母さんの頭の上に、葉っぱの傘が、ざわざわまあるく広がっとる。
 飛び上がってお母さんの顔を舐める。濡れとるけんやか、なんかしょっぱい。
 お母さんの手が背中を撫でる。
 あの子はこんとよ。
 ばってんおかさん、すぐくるけんていよったよ。かさばもってくるけんて。
 お母さんに抱かれて空を仰ぐ。
 雲の切れ間から光がこぼれた。雨やんどる。
 どこからかつん、と煙の匂い。
 お母さんは振り返るらんで、ずんずん歩く。
 すぐくるっちいよったとよ。
 お母さんの肩越しに、緑の傘を見る。
 遠ざかったその木の下で、良雄さんらしき影が手ばふりよる。
 ほら。やっぱきたばいおかあさん。
 ワンと一声。
 お母さんは立ち止まって泣きださした。

B:よく分からないんだけど、いい話?
A:いい話、かな。方言の使い方が巧みだよね。一行目で、いきなり読めなくて困ったけれど、その謎解きも作中で自然にされているし。この言葉遣いだからこその温度感みたいなのもあって、さらに良いと思う
B:正直なところ、こういう方言は慣れていないので読みづらい。そのせいで誤読していないか、心配。
A:逆に、一行目が無かったら、そのあと慣れるまでずっと辛かったと思う。これがあるから、あ、方言なんだとすぐに分かったと思う。
B:「いっちょんこん」は「行ってしまった」?
A:一向に来ない、だと思う。
B:ああっ、「待ってるのに来ない」!?
A:そうそう。
B:おおおお。理解できると快感だなあ
A:音読したりすると、わりあい分かりやすいかもよ。
B:え、ええええ! もしかして、これって悲しい話!?
A:悲しくもあるね。
B:いかん。泣きそうになってきた。涙腺、弱いのだから、もう、マジ勘弁してほしい。
A:おそらく犬かと思われる「シロ」の一途さというか健気さを思うと、いい話、かな。まあどっちにしても悲しいけれど。でも方言を使ったことも含めて、良くできていると思う。B、泣き止んだ?
B:泣き止んだ。これ、傑作だね。素晴らしい


B:じゃあ、集計結果でも見るかな。これで<緑の傘33>の評価低かったら、違う意味で泣くな
A:確かに(笑)
B:<緑の傘22>は意外。もう少し、点数、入ってそうなのに。
A:まあもうひとつ次点に、とかくらいかな。
B:<緑の傘23><緑の傘24>は飛ばして、<緑の傘25>はやや逆選的だと思うけどなあ。
A:というか、これでもたくさん票が入っているような気がする。まあ<緑の傘26>ほどじゃないけれど。
B:それ、今、驚愕中。<緑の傘26>の何がそんなにすごいの?
A:ね、どこを見たら、これに票を入れる気になるんだろう。不思議。
B:いやいや、不思議とか言っている場合ではないよ、A。真剣に考えよう。彼らはこの作品に何を見出したのだろう
A:そっか。頑張ってみるか。知らない人の思考を追うのは難しいけども。
B:…………ううん、分からん。解釈は何通りか可能だと思うけれど、どれも正選を与えるほどじゃない。もし、多様な読み方ができるが故に評価されているのだとしたら、他にもいっぱいあったし。謎だ。
A:何度読んでも、音読しても、文が空回りしてるだけで、なんとも面白味すら感じなくなってきた
B:同じく。もういいや、次、見よう、次。<緑の傘27>は、まあ、スルーされるよね。<緑の傘28>も妥当なところかな。
A:うーん<緑の傘27>は次点にいくつか入っても良かったと思うけどな。
B:まあ、次点ならね。
A:<緑の傘29>と<緑の傘30>もこんなもんかな。
B:<緑の傘31>もいいでしょ。
A:そうだね。
B:問題は<緑の傘32>なにこれ?
A:うわあ、また、信じられない結果だなぁ。
B:ってゆーか、さー。悪いけど言うね。これ、フルヤマメグミさんが◎出してるじゃない。この作品って作品として評価されてるんじゃなくて、野球をネタにしているから評価されているんじゃない?
A:野球に思い入れがある人なら引退の挨拶は感動ものなのかな、そういうだけのこと? 作品としての評価じゃないよね
B:多分、逆選として投票している人も同じなのだと思う。野球ネタを上手く使ったなあという理由で。
A:なんかアンフェアというか、そんな感じがするなあ
B:まあ、逆選はいいけどさ、正選として推すにはどうよと声を大にして言いたい。舐めてるんじゃないの?
A:あんまりだね。他の良作に申し訳ないと思う。
B:もうね、この結果にどうしてこんなにも怒りを感じているかと言うと、すぐ、真下に見えている<緑の傘33>の評価の方が低いからだよ!
A:そうそう。この分をもっと<緑の傘33>にまわせばいいのに
B:正選2点て、いくらなんでも、あんまりでしょう! まっとうのにいっちょんこんだぜ、まっとうのにいっちょんこん!
A:ねえ。本当に、どういうわけなんだか。真面目に読む気はないのか投票者諸氏は。
(中略)
B:じゃあ、まあ、また明日。
A:また明日。
posted by A&B at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月08日

緑の傘編(06)

<緑の傘34>
洋子の傘は緑色。
それが、恋が上手くいく彼女だけのジンクス。
きっかけは単純。ありがちだけど、小学生の頃、少し好きだった男の子と一緒に学校から帰っていると、雨が降ってきた。で、道端に在った大きな葉っぱで相合傘で、歌いながらスキップで帰ったという話。

洋子の今の傘は大きなカエルの顔の傘。
これまで恋は上手くいったことも、いかなかったこともあった。
でも洋子はこのジンクスを大切にしている。
緑色の傘を差すと、あの日の雨と共にキラキラした気持ちを思い出す。
今の恋は、上手くいっている。

B:だーかーらー、なーにー?
A:洋子のジンクスの説明でしょ。そんなことされても面白くもなんとも無い
B:もう少し落ちにキレがあればよかったね。
A:ジンクスがなにかこの先を予想させるような要素になってるとかね。
<緑の傘35>
 靴下のことも忘れて、夜更かしをしたからなんだろうね。
 冷たい雨が降ってくる。
 まぶしい駅前から逃げるようにして、改札を抜け出た僕は走りだした。
 小さな街灯のかげに、君はいた。雨があんまり冷たいので、魔法はもうほとんど残っていなかった。
 セロハンテープで貼り付けられた、折り紙、しわくちゃのアルミホイル。とけて流れて消えていく。
 残ったものはただ、君と僕と緑の傘だけ。
「だから早くって言ったのに」
 君は下唇をかんでしまう。
 そうだねごめんね、僕はいつも少し遅いね。
 でも雪が降らなくたって、君の手をとるよ。そんなにびっくりしないで。
「だってプレゼントなんでしょう」
 ツリーの下にはプレゼント。そんな絵本を昔、読んだよ。
 目じりにキッス、大丈夫、すべて隠してくれるから。

B:うーん、どういうこと?
A:また分かりにくいというか難しいね。
B:うーん、駄目。分からない、パス。
A:クリスマスが過ぎてるみたいだね。魔法で飾り付けされていた、というか、そんな感じ? 飾りの無くなったツリーが緑の傘、だと思うけれど。
B:過ぎてる、のかな? ツリーはもみの木でいいんだよね?
A:もみの木だと思う。
B:ふむふむ。となれば、案外、ストレートな話なのかな?
A:過ぎてないのか。靴下飾るのってイヴだっけ?
B:イヴの夜に飾ると、クリスマスの朝にプレゼントが入っているはず。
A:ああ、そっか。じゃあ当日だ。その夜、かな。「雪が降らなくたって、君の手をとる」というのと「「だってプレゼントなんでしょう」」という台詞がちょっと分からないけれど。あと「すべて隠してくれるから」も。
B:ちょっとガジェット飛ばしすぎな気がする。
A:飛ばしすぎ、とは?
B:いや、用意しすぎているがゆえに、本質が見えづらい
A:かな。
<緑の傘36>
金属反応の正体は固定軌道式交通機関の跡―線路だった。横断すると蘇鉄の群落の向こうに海岸が見えた。ウミネコが群れるふたつの陸繋島に区切られた小規模な白砂の浜。
イレギュラーな色彩を検出。汀線限界から3イルギィの位置に傘が落ちている。人間は雨に濡れることを忌避し、これを上肢に把持して降雨を遮った。
接近する。
拾い上げながら操作法を検索し(状態は良好。通常因果を逸脱してここに置かれたものかもしれない)後退しながら開いた。付着した砂が散る。紫外線を浴びて褪色し、緑の濃淡による縞模様になっている。表面に黄色い塗料で文字が書かれている。未解読の文字だが、因果履歴を追尾してみると、遠隔的な願い―祈りがエンチャントされている。貴重な情調遺物。感染効果で好奇心が励起される。好奇心に対する好奇心が喚起される。
腹腔を開いて格納するべきだったが陽光を遮るように掲げくるくると回した。光学認知系を人間設定まで低下させると、文字が黄色い輪になって視えた。情調検索して「わくわく」を拾い出した。反芻してみる。わくわく。わくわく。
「緑の傘を拾う」を「わくわく」を表わす慣用語法として申請する。
この語法は22万7千年にわたって断続的に存続した。

B:いいねいいねいいね
A:うん、いいね。ちょっと地理学っぽい用語が最初に頻出して読みにくいけどね。
B:陸繋島や汀線は、本当にある言葉なのかな? 意味がよく分からないけれど。
A:あると思うけれど。調べてみるよ。とりあえず陸繁島に関してはここ。汀線は、こことか。
B:へええ、またひとつためになったよ。「因果履歴を追尾」の下りは最高にいいね。溶けそうになる
A:「因果履歴」とか、いいよね。文字を未解読のままにしておくのも、想像力を刺激されて嬉しい
<緑の傘37>
『地球には緑が足りない』と声高に叫ぶ環境団体が、ここのところ躍起になって人口雨を振らせ続けている。
 クロレラをたっぷり含んだ緑がかった雨。
 その雨粒はねっとりと粘ついていて、ワタシの透明なビニール傘はすぐにその緑で重たくなる。
 家についたら、へばりついたスライムのような塊を水道水で洗い流す。
 錆び色の水に流されていく緑色の微生物たちは、地球に寄生している人間たちを嘲笑いながら排水溝へと滑り落ちていった。

B:だから(略
A:同感。いやでも、「嘲笑いながら」のあたりは、少し考えてみた方が良いかな。
B:ふむ、確かに、きれいなだけではない。世界はきれいなものだけで構成されているわけではない、という主張を感じるね。
A:「人口雨」は誤字かな。「人工雨」だよね、きっと。ついでに言えば「振らせ」も「降らせ」だろうけれど。単純なミスだけど、字に気を使っていないような印象
B:うーん、こういう瑕疵を残してしまうのは残念だね。まあ、「だから何?」系である時点で、もう駄目だけど。
<緑の傘38>
 ぼくの父はアマガエル。雨が降るとけろけろ鳴く。ぼくの母はウシガエル。雨が降るともうもう鳴く。ぼくが都会へと旅だった日、ふたりは緑色の傘を餞別にくれた。それはとても古くて重たい傘で、ぼくはとにかく気に入らなかったけど、荷物の底に詰め込んだ。
 都会の暮らしは楽しかった。そこには土も茂みもない。ぼくはアスファルトのうえで踊るようにして暮らした。田舎のことも緑の傘のことも、ちっとも思い出さなかった。
 ある日、田舎から訃報が届いた。父は車にひかれて、母はハンターに捕らえられて、死んだという。でも辛いはずのぼくは泣き方を思い出すことができなかった。みじめな気持ちで緑の傘を部屋の奥から掘り出した。ぎちぎちとかたまっていた傘をゆっくり開き、その緑色のかげのなかに身を横たえる。そして思い出す。この深い緑をぼくは知っている。草むらを水田を走り回った雨の匂い。広げた傘からしとりしとりと雨が落ちてくる。父の鳴き声が、母の鳴き声が聞こえる。ぼくの喉がゆっくりと震えだした。それは小さな小さな、やっと取り戻したぼくの鳴き声だった。ぼくは鳴いた。父を思い母を思い、鳴いた。
 緑色の傘をさし、ぼくは明日田舎へ帰る。

B:これは説明不足。主人公がどうして都会に行くのか、どうして都会での暮らしの方が田舎よりいいのか。両親が亡くなった後、田舎に帰ってどうするのか。両親の死を知ったときの主人公の感情が、感傷にしか見えない
A:そうだね。緑の傘がいまいち活きていないような気もする。
B:それもある。「だから何?」一歩手前と称して差し支えない。
A:まったく。
<緑の傘39>
 この街もまたなす術もなく暑くなり、一週間も続けてスコールが降るようになった。ずっと冷房をつけっぱなしなので電気は自然と不足し、最近のビルは今更エコマーク入りのソーラーパネルを大きく広げ、陽射しも雨もさえぎっている。でも、それで地面に恵みが届かないわけでなく、パネルのあい間から滝のように結局流れ落ちてくるのだ。光が水に乱反射し、街の景色も瞬くごとに移り変わる。
「うひゃあ、たまんないね!」
 参ってるのか悦んでるのか、おこぼれを浴びたヤシの木は声をあげて騒いだ。大柄な肩をふるわせ、頭のなかを洗うように伸びをする。リサが上目づかいに押し黙っていると、ヤシの木は「もうそんなこわい顔すんなよ」と腕をとり、湿ったからだに引き寄せた。
 やっぱり会うんじゃなかった。リサは前髪で瞳を隠し、甘える心を一言ずつ噛みつぶす。でも、枝葉のあい間から棒のように流れ落ちてくるのだ。
 髪もシャツもビリジアンのスカートも濡れてしまう。今日のために買ったのに。鼻をすするリサの足元に小さなヨシガモがひと休みに寄ってきた。スリットのあい間からも糸のようにみんな流れ落ちていく。そして羽のあい間からも、道に芽ぶく双葉へ向かって。

B:たまんないね!
A:いいね! 熱気と瑞々しさと、リサの感情とヤシの言葉遣いとか
B:いや、正直、参った。読みづらい。よく分からない。
A:ええー。
B:何がいいの?
A:炎天下の水浴びのような感じ
B:「この街もまたなす術もなく暑くなり」の「またなす」って何?
A:「この街もまた」、「なす術もなく」じゃない?
B:ああ、なるほど。じゃあ、「それで地面に恵みが届かないわけでなく」とかは。悪文じゃない? 爽快感を前面に押し出したいのなら、一行目をカットして、「うひゃあ、たまんないね!」を最初に持ってくればいんじゃないかな。
A:いや、確かに炎天下の水浴びのような爽快感はあるけれど、それと同時に爽快感というか、してやったり感みたいなのが、いくら覆っても雨が地面に届く、という点じゃないかな。
B:うーん、よく分からない……。
A:生命力を感じるよ
B:まあ、元気は溢れていると思うけれど趣味の違いかなあ
A:かなあ。
B:ちょっと残念だなあ。Aが味わえて、私が味わえないというのは。残念だ。
A:ふっふっふ。独り占めだー
<緑の傘40>
 点け放しのラジオから、オオアメコウズイケイホウという声が聞こえる。また雨だねと驟子は言う。寮の窓では長方形に切り取られた欅の葉並が少しずつ、それぞれ雨滴に打たれて微かな震えを見せている。そう、我々がこの部屋で迎える朝は雨。
 高校の同級生、今は月一の呑み友達、それから夏至の夜以来の交情。これで我々の関係の全て。
 ドア際まで送って、使えばと差し出す。いつも持って行きっぱなしで持ってこないから、これで最後だよ。サークル仲間の忘れ物の折りたたみ。
 (「恋愛」という言葉の隣に「友愛」という言葉があることを憶えている?)
 いいよ。要らないという意味。その色、嫌だから。
 ドアが開く。水と風と欅の匂い。それだけを残して、じゃあね。

B:欅。ああ、やはり欅は、けやきと読むのか。驟子は、しゅうこ?
A:難読だね。けやきを思い出すのに時間がかかった。驟子は、たぶん、しゅうこ、かな。
B:驟雨の驟だね、多分。
A:ね。
B:と言うわけで、漢字の難しさの方に意識が傾いてしまった
A:読むのに懸命になってしまって、物語が入ってこないね
B:朝まで飲んで、朝を迎えて、雨が降っていたから傘をあげて送り出すところ?
A:だね。何色か知らないけれど傘は色が嫌いだからと断られてるね。
B:中盤の括弧は主人公と驟子、どちらの科白だろう。
A:驟子だと思って読んだけど。
B:主人公は男なのかなあ。異性の飲み友達と宅飲みするかなあ。「我々がこの部屋で迎える朝」というフレーズからは、ふたりがエッチしたように見えるけれど、驟子はなんとなく冷たそうなイメージ。驟子は主人公に対して友愛の感情を抱いているけれど、主人公は恋愛したいってことなのかな。
A:そうか。異性とは限らないか。
B:よく考えたら、異性にせよ同性にせよ、恋愛感情は抱けるから、主人公が男かどうかは問題じゃないね。
A:だよね。
B:まあ、よく分からないけれど、多様な読みができるという点において、そう悪くない作品だと思う
A:私は、恋愛のあとに友愛という言葉が来ていることと、最後の「じゃあね」から、別れの話かと思ったんだよね
B:そう指摘されると「これで最後だよ」あたりも意味深だね。
A:夏至の夜から一緒に朝を迎える仲になったけれど、もうまた呑み友達に戻りましょう、みたいな
B:おお、なるほどねいいね
A:うん、まあまあだね。緑の傘がないけども。
<緑の傘41>
 新世紀というフレーズが腐るほど古臭くなる頃、軒先に緑の傘が逆さに並ぶ。緑の傘はバイオテクノの粋を集めたパラポラである。日没と同時に眠り、日出と共に目覚めてCo2を貪る。暫くもしゃもしゃ咀嚼を繰り返し、気が済んでは管からぺぺっとO2を吐き、またCo2を戴く。
 嗚呼。今時、街路樹は全て緑の傘。見てみよ、緑地帯に溢れ咲く人造生物の群れを。「便利で良い世の中になったね」と若者は誰も彼も同じ顔で笑いあうのだ。

 見てみよ。
 新世紀だ。
 キヅケヨ。
 新世紀だ。

B:今ひとつ。最後の四行は余分じゃない?
A:うん。最後の四行はいらない気がするけれど「キヅケヨ。新世紀だ」はどっかにあってもいいかもね
B:「キヅケヨ」はちょっといいよね
A:奇怪な世界に合ってると思う「キヅケヨ」は。
B:「嗚呼」あたりもそうだけど、ちょっと歌詞っぽい
<緑の傘42>
 きみの緑いろした傘が、雨のなか、鮮明にうかびあがっていた。
 目を、閉じる。
 雨の下校時刻、教室からみている。
 淡く、うすい緑いろ。控えめで、あまりクラスでも目立たないひとだったけど、あの緑の傘が、ふしぎときみの存在を示していたように思う。
 雨のなかで輝く。
 どこにもない緑いろだった。他のどの緑いろとも違って見えた。しずかな雨のなか、ぼくのこころにやさしく燈った灯りだった。
 雨の季節が終わって、汗をたらしながら忙しい夏期講習にあけくれ、二学期からぼくは進学コースにゆき、きみとはなれた。それから、ぼくに、あの灯りのみえることはなかった。
 都会の大学にきたぼくの目に映ったのは、けばけばしいネオンライトで。つめたいだけの雨を避けて閉じこもったぼくのこころで、あらゆるものは色あせてしまい。すべて消えてまっくらになりそうな、そのとき、ひとつの灯りがぼくを導いたのだった。ここはぼくのいる場所じゃないんだ。
 故郷に戻って、少しずついろをとりもどす景色の果てに、緑の傘が遠ざかっていく。
 追いかけて。声をかけてみても、ふりかえったのは知らない少女で、声をかけたのも、知らない少年だった。
 目を開ける。
 雨がやんで、もう、緑の傘は、みえなかった。

B:なんとも言いがたいなあ。これも一歩間違うと「だから何?」に堕してしまうけれど、最後まで読むと不思議な哀愁がある
A:これは、いいと思う。
B:え、そんなに?
A:そんなにってことでもないけど。
B:そこそこ?
A:そこそこ。
B:文体でちょっと損してるよね。スマートでない。
A:多少、読みにくいかな。漢字にしといて欲しかったところがいくつか。
B:夏期講習より塾や予備校の方が良かったかな。漢字を減らすことで味が出ているだけに。「輝く」もひらがなでよかったでしょう。
A:「目を、閉じる」から「目を開ける」までが回想というか幻想なんだろうけれど、その中でも「知らない少女」で「知らない少年」だってのが、いいよね
B:知らない少年は、かなりいい。素晴らしい。
<緑の傘43>
 眩しくて見てられなかったので、泥水に浸けてがしがしと踏んづけたのだ。土色に溶け込んだのを確かめてようやく息がつけた。これでもうただの骨格化石。時間軸の交わることもない遠い歴史だ。
 なのに、がらんどうの部屋でその夜夢を見た。あの傘と同じ目映い色の蕗が大きく背を伸ばしている。雨露を葉の上ではじいている。その葉陰を覗くと、茎を楽しそうに回しながら持っているのは君だ。手を少し高く掲げると茎の先をチュッと吸って笑った。甘露、なのだろう、思わず僕も微笑む。しかしその瞬間君はくるくると回り出し、スピードを上げたかと思うと二人になる。二人は少し立つ角度を違え、少しだけ違うスピードで回り続ける。そして二人は四人に、四人は八人になり、ときどき茎の露に口づけては笑みをこぼし、ますます楽しそうに回り続ける。笑うことも忘れて僕は猛烈な勢いで増えてゆく君と蕗を茫然と眺めている。そして蕗の葉が見渡す限りの地面を覆い尽くしたかと思うと、いきなりすべてが消えた。蕗も君も掻き消え、僕の手には握り締めて萎れた小さな茎が一本だけ残される。
 目が覚めた。…きっと僕は同じことを繰り返すのだろう。カーテンを引くと、雨露の残る新緑が目に飛び込んできた。

B:よく分からないけど、雰囲気はいいね。「君」がかわいらしい。
A:かな。だから何、と思わなくもないけれど。
B:いや、これは雰囲気を楽しむものでしょう。
A:あ、彼女、殺しちゃったのか?
B:――え
A:そうか、骨格化石ってなんだろうなー、と思って。少しずつ回るスピードが違うのは、別の彼女だから、だったりするんじゃない? あと、蕗まで増えてるとは最初思わなかったので「増えてゆく君と蕗」を読んだときちょっとびっくりした。
B:そう念頭に置いて読むと、っぽいね。
A:ね。
B:恐くなってきた
A:彼女が可愛いだけに、さらにね。


B:じゃあ、集計結果でも。<緑の傘34>と<緑の傘35>はいいか。<緑の傘36>はいいね。なんか、ようやく評価基準で同意を得られた気分
A:うん。適切な評価だと思う適切というか、納得の
B:そうだね、ほっとした
A:だね。
B:<緑の傘37><緑の傘38>も飛ばして、<緑の傘39>はどう?
A:うーん。これはなぁ、ちょっとスルーされすぎてる気もする。そんなにやたらと良いってことでもないから、あまり強くは出ないけれど。
B:私はこんなもんだろうと思うけどね。
A:かなあ。
B:<緑の傘40>飛ばして、<緑の傘41>はちょっと見てみたい。悪くないと思うけど◎××かなあ?
A:次点くらいな気がするけれど。
B:そうそう。○△みたいなね。
A:うん。逆選ていう感じはしないけれど。
B:<緑の傘42>がスルーされているのは残念。まあ、仕方ないという気もするけれど。
A:仕方ないのか。残念だな
B:だって、瑕疵が多いでしょう
A:ああ、まあ、そうだね。確かに。
B:<緑の傘43>はー、まあ、こんなものか。
A:まあ、そうかな。
posted by A&B at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月09日

緑の傘編(07)

B:じゃあ、私たちの正選と逆選を発表しますか。
A:うい。
<A選評結果>
○<緑の傘19>わんでるんぐ
○<緑の傘33>オギ
△<緑の傘3>藤田岩巻
△<緑の傘39>sleepdog
×<緑の傘15>まつじ

<B選評結果>
○<緑の傘8>三里アキラ
○<緑の傘36>雪雪
△<緑の傘21>砂場
△<緑の傘33>オギ
×<緑の傘25>雨街愁介

B:思っていたより被らないものだね、どれどれ……
A:だねぇ。
B:<緑の傘19>は私も悩んで落としたんだけど、<緑の傘3>を持ってくるのか。へえ。そして<緑の傘15>が逆選か。へえ、ほお。
A:私は<緑の傘36>を迷って落としたけれど。<緑の傘25>は最初から選択肢になかったなぁ。
B:逆選は<緑の傘25>と<緑の傘5>で迷った。次点枠が三つだったら、<緑の傘13>も入れていた。
A:<緑の傘5>は最初に迷って落としたなあ。面白かったのを選んで、その中から正選と次点と逆選を弁別してったんだけどね
B:私はまず面白いのを選んで、よりテーマを意識しているのを正選。面白いけどテーマから乖離してしまっているのを、次点とした
A:テーマに沿っているのは当然、と思ったので、それも含めて面白かったものを私は最初の段階で選んだつもり
B:しかし、<緑の傘3>かー。やっぱり、最終行?
A:そうだね。私からすれば<緑の傘8>かー。だけどね。
B:<緑の傘33>を正選に挙げているけれど、これは泣けるし最高だけど、ややテーマから離れていると思う。
A:そうかな。緑の傘と良雄さんが重なるし、それによってシロは雨から守られてるんだし、テーマは十分に生かされていると思う。
B:ふうむ……。じゃあ、まあ。お互いが高く評価している、<緑の傘33>をAB賞、<緑の傘19>をA賞、<緑の傘8>をB賞とでもしましょうか
B:じゃあ、「緑の傘編」はこれにて幕。次は「歴代の逆選王編」にてお会いしましょう〜
A:しましょうー


 以下、著者一覧。
<緑の傘1>作者:軍服
<緑の傘2>作者:ヤマダ天使
<緑の傘3>作者:藤田岩巻
<緑の傘4>作者:山田式
<緑の傘5>作者:根多加良
<緑の傘6>作者:naokin
<緑の傘7>作者:アッキー
<緑の傘8>作者:三里アキラ
<緑の傘9>作者:てるり
<緑の傘10>作者:フルヤマメグミ
<緑の傘11>作者:安部レラ
<緑の傘12>作者:きき
<緑の傘13>作者:楠美曼寺
<緑の傘14>作者:伝助
<緑の傘15>作者:まつじ
<緑の傘16>作者:瀬川潮
<緑の傘17>作者:脳内亭
<緑の傘18>作者:階段室
<緑の傘19>作者:わんでるんぐ
<緑の傘20>作者:小烏ことり
<緑の傘21>作者:砂場
<緑の傘22>作者:マンジュ
<緑の傘23>作者:ササハラ
<緑の傘24>作者:井上斑猫
<緑の傘25>作者:雨街愁介
<緑の傘26>作者:不狼児
<緑の傘27>作者:春名トモコ
<緑の傘28>作者:美土里
<緑の傘29>作者:天原
<緑の傘30>作者:五十嵐彪太
<緑の傘31>作者:よもぎ
<緑の傘32>作者:空虹桜
<緑の傘33>作者:オギ
<緑の傘34>作者:由香
<緑の傘35>作者:ツチ
<緑の傘36>作者:雪雪
<緑の傘37>作者:T-Ben
<緑の傘38>作者:たなかなつみ
<緑の傘39>作者:sleepdog
<緑の傘40>作者:黒衣
<緑の傘41>作者:影山影司
<緑の傘42>作者:今井モモタロー
<緑の傘43>作者:はやみかつとし
posted by A&B at 17:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月15日

MSGP 2006 2nd(01)

 MSGP 2006 2nd ROUND を取り上げ、対談しています。
 まだ選評を済ませていない方は、閲覧をご遠慮ください。続きを読む
posted by A&B at 12:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月16日

MSGP 2006 2nd(02)

 MSGP 2006 2nd ROUND を取り上げ、対談しています。
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2006年07月17日

MSGP 2006 2nd(03)

 MSGP 2006 2nd ROUND を取り上げ、対談しています。
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2006年07月18日

方針に関して

 当ブログでは「500文字の心臓」掲載作及び選評結果を取り上げ批評しております。
 批評に際しては、公平であることを心がけ、ただの誹謗中傷にはならぬよう注意します。
 各作者より掲載しないよう要請された場合は、速やかに該当作品および該当作品に関する対談の掲載を中止します。

 ご意見ご要望がありましたら各コメント欄、もしくは以下の連絡先で受け付けます。
info@kairou.com
(全角の@を半角に直してから送信してください)
posted by A&B at 05:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 告知 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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