2006年07月04日

緑の傘編(02)

<緑の傘7>
 貴之が謝りつづけても、前を歩く愛美はふり向いてくれなかった。
 パステル調のグリーンで、柄では愛嬌あるカエルがウインクしている。そんなお子様な傘を見て、つい吹き出したのが原因だった。
 貴之はため息をつき、傘の柄でこめかみをかいた。予報によると、午後は晴れだ。平凡なビニール傘は、朝しか出番がなかった。
 また謝ろうとして、言葉を飲み込んだ。愛美の頭上で、看板が塗られているのに気がついたから──だけではない。大型缶が倒れ、塗料が流れ落ちてきたためだ。
 すばやい動きで、愛美に傘を差した。間一髪。ビニール生地のうえで、塗料が跳ねる。
 直後、頭にガンときた。転がる缶を視界に収めながら、貴之の意識は遠くなっていった。
 目が覚めたのは、病院のベッドでだった。横にいた愛美が、胸をなで下ろしていた。
「よかった……」
 貴之は愛美と病院をでた。予報ははずれて、雨が降っていた。ふたり同時に傘を開く。ありがたいことに、塗料に染まったビニール製も、いっしょに救急車にのせられていたのだ。
 おそろいの色をした傘を差し、貴之は愛美と肩を並べて、帰途へとつくのだった。

B:いいね
A:なんか、ほっとするね
B:地味でサプライズも大したことのないものだけど、こじんまりと上手く作られてるね。ただ、序盤に少し難ありかな。
A:上手く構成されているよね。序盤は、そうかな?
B:凡庸じゃない?
A:それは、この作品の場合は悪いことじゃないような気がする。
B:まあね。良くも悪くも、ウェルメイド。あまり語るところがないね
A:まあね。
<緑の傘8>
 アタシの誕生花ニオイカントウからは過保護な母親を連想します。大きな葉は日光を遮り、周りの草を枯らしてしまうそうです。
 仕事もしない家事もしない彼を横目に晩ご飯を作る午前三時半。客から貰ったアクセサリー類は煩わしいので外します。

B:あ、分かった
A:私にはまだ分からない。
B:つまり、主人公は水商売の女性で、深夜を過ぎてから家に帰ることができるわけ。そうして、帰ってきてみるとニートの彼は、ひとりで晩御飯が作れないから、午前三時半なんて時間に晩御飯を作ることになる。
A:それはいいけど、二行目だけでしょ? 一行目とは、どうかかわる?
B:一行目は主人公の比喩でしょう。彼女が彼の世話を焼きに焼いたから、彼は仕事も家事もできなくなっちゃったんじゃないの?
A:そういうことか。たぶん、私にとっては、過保護と世話を焼きに焼くというのが、少し結びつかなくて
B:過保護の母親って子どもに何もやらせないでしょう。至れり尽くせりで育った子どもは、家事ができないんだって
A:ああ、そうか。横目に見てたりするところが、過保護さと結びつかないのかな。ちょっと迷走してるな私の発言、ごめんごめん。
B:いやいや、これは難易度が高いと思う。パッと見では、なんの話をしているのかまるで分からないし。読者に要求している読解力が高いのだと思う。
A:うーん。それだけ高い読解力で読むと、面白いのかな?
B:面白い。傑作。僅か二行の作品だけれど、背後に大きな物語を予感させてくれる。今のところベストはこれだね
A:私はちょっと、なんとか読むと、どうも主人公の気持ちがハッキリしてないようで、過保護なのか、彼に呆れているのか、それも不安定で、あまり伝わってこないけどね。
B:確かに、明瞭には描いてないかな。でも、午前三時半にわざわざ彼のために晩御飯を作ってあげるところを見ると、放っておけないっという愛情が見える。
A:「客から貰ったアクセサリー」は、何だと思う?
B:ガジェットのひとつでしかないと思うけど。仕事に対するしがらみという意味も含まれているのかも。
A:彼との関係を書いているところに、仕事のしがらみは、どうかかわってくるのだろう。
B:最後の一文がなければ、主人公が午前三時半に帰宅するような職業であるとは見抜けないでしょう。だから、それを思わせるガジェットが必要なのだと考えていた。
A:具体的にピアスとか書かなかった理由とかは、考える必要ないかな?
B:指輪だと思ってた
A:指輪?
B:料理に邪魔だろうから。
A:そうか、そうだね。確かに。なるほどね。
<緑の傘9>
「勘違い」

さぁ、集まりましょう
砂漠へ、これを持って
そうです、草の色の傘
さぁ、差しましょう
宇宙から見たときに見た誰かが
きれいな星だと勘違いするように

嘘かどうかはどうでもいいのです
見た目の問題です

ほら、こんなに美しい星です
だれか、星を交換しませんか?

B:ああ、いいね
A:おお、いいね
B:一行目はなんだろう?
A:これにはたぶん、少なくとも二種類の意味があると思う。ひとつは、星の交換相手に、美しい星と勘違いさせるってことで、もうひとつは、こういう行為で見た目だけを美しくしようとする行為が勘違いだと言っているんじゃないかと思う。
B:解釈としては題、でいいのかな?
A:そうかな。位置づけ的には、そうだね。
B:タイトル競作には、題をつけないから。メタな思考だけど、これはわりと新しい人の作品なんじゃないかなあと邪推。
A:そういうルールは知らないけど、しかし、タイトルも含めて作品、という考え方もできなくはないでしょ。
B:意味に関しては、前者しか思いつかなかった。後者も考慮すると、案外に、深いね
A:ね。
<緑の傘10>
 青空なんて、大昔の映像やCGでしか見たことがない。空を覆うのは、紫色と茶色の混じった、毒々しい雲だけ。
 かつて人類が環境破壊の限りを尽くしたため、今では地球をこの色の雲が包み、人々は比較的毒性の低い場所以外では暮らせなくなった。
 気象庁が降雨を認識すると、街は巨大な緑色の傘に覆われる。薄く膜状に張り巡らされたビームが、放射性物質や一酸化炭素、亜酸化窒素などから街を護るのだ。見上げると、空は雲の色とビームの緑色が混じり合い、なんとも言えない気色悪い色になる。
 あいつは常々、『青空が見たい』と言っていた。門番が街の外壁を厳しく見張っているのに。僕らは内心、あいつを莫迦にしていた。
 ある日、あいつは消えた。主を失った部屋の壁には、いつもの口癖が書かれていた。
 誰もが忘れかけたころ、あいつからメッセージが届いた。真っ白な分厚い氷に覆われた大地。僕らの知らない、雲ひとつない空。
 残念なのは、そのメッセージがデジタルで送付されていたことだった。画像はJPG形式で保存されていた。

B:よく分からない。画像がJPG形式だと、開けないってことなのかな?
A:作り物だった、ってことを言いたいのかもよ
B:おお、なるほど!!
A:「大昔の映像やCGでしか」とあって、たぶん、CG技術のあたりは過去のものなのかもしれない、とか。
B:なるほどね。つまり、友人の見た青空はリアルだったのかもしれないけれど、JPGで保存されてしまった瞬間に、それは大昔のCGと大差なくなってしまった、と。なるほどねえ。上手いね。
A:そう読むのか
B:え、違うの?
A:いや違うことはないだろうけど、前にBが言ったように、読み方は自由だろうから。
B:意味深だなあ。はっきり言えよー
A:意味深というか、まとまらなくて。ええとね。青空を見たがっていた友人は見たいあまりに、どうにかなってしまった、ということで、大昔の映像で見たことある青空の画像が送られてきた、ってだけなのでは、とか。
B:残酷な読み方だね
A:送られてきた青空の画像に、友人自身も写っていると最初は想像していたから、作ったのかな、と思ったけれど。
B:まあ、確かに主人公視点では、送られた画像が本物かどうかの判別はつかないけれど、それはないんじゃないかな。
A:まあ、残酷かも。
B:そうだとしたら、友人が狂うという伏線が敷かれるはず。
A:部屋の壁に口癖が書かれていた、というのは、それに当たらないかな。
B:そうかなあ。とりあえず、結末の解釈は置いておいて、世界観について話したい。
A:うん。
B:この終末観は実にステレオタイプ。世界が滅亡して、人々がドームに閉じこもっているというのも、その中の人たちが青空を見たいと嘆くのもありきたり。また、全編が説明口調で、少し辟易。もう少し行動で主人公の内面が描けるんじゃないかな
A:その通りだと思う。「気色悪い色になる。」までと「あいつは常々」からが、最初は完全にバラバラにしか見えなかった。
B:そうそう。『青空が見たい』から、輝きだすよね。俄然、面白くなる。前半は、文脈無視してオールカットでいいんじゃないだろうかってぐらい
A:そう。後半だけで良いとか、思わなくもない。
B:まあ、そうなると、緑の傘がどこにもないけどね。
A:でも青空が見たいというテーマで書いているなら、緑の傘はどっかで出てくるでしょうね。
B:どうでもいいけど、CGが半角で、JPGが全角なのは、ケアレスミスか??


B:では、集計結果を見てみますか。
A:そうしよう。
B:ああ<緑の傘10>はフルヤマメグミさんじゃない。
A:おお本当だ。今度聞いてみようか、どういうことなのかと。
B:そうしよう。と言うか、<緑の傘8>が低すぎる件について
A:これで低すぎるか?
B:低すぎるよ。皆、分からなかったんじゃない?
A:かもね。分からないと、なんか茫洋としてる印象だからね。
B:<緑の傘9> は何故か、逆選に評が集まったね。
A:逆選かな? ふつうに、次点とかが多くなるのかと思ったけれど。
B:そうそう、むしろ次点かなっていう作品だよね
A:ねぇ、どういうことなんだか、逆選の意味が良く分からない。
B:まあ、でも、Aの指摘した、勘違いの二つ目の解釈を採れば、逆選に推したくなる気持ちも分からないではない。
A:そういうもんなのか、逆選って。
B:さあ。
A:<緑の傘7>は? 地味すぎた?
B:地味だってー
A:地味だけど良い話だと思ったんだけどなぁ
B:右の耳から入って、左の耳に抜けてしまうような軽さが命取り。次点はいくらか貰えるかもと思ったけどね。
A:そうか、そうなるか。次点がひとつくらいは、とは思ったね。
B:うんうん。
A:そんなとこかな。
B:では、また、明日。
A:また明日。
posted by A&B at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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