2006年07月05日

緑の傘編(03)

<緑の傘11>
 青い世界に住む人は、なにからなにまで青ずくめ。なにより青が大好きで、なにより黄色が大嫌い。だから黄色い国との国境に、青い大きな壁を作った。そんな彼らがあるとき見たのは、ひとりの少女。青い服に青い日傘で、ゆらゆらと壁の上を歩いている。彼らはその「青」に拍手喝采した。

 くるり。

 ところが少女が向きを変えると、少女の服は黄色くなった。彼女の服は半分が青で半分が黄色だったのだ。怒った青い人々は青い石を少女にむかって投げつけた。黄色い人々も同じようにしているのだろう、青い壁を越えて黄色い石も飛んできた。

 くるくるくるくる。

 少女は傘を回す。青と黄色に塗られた傘は、青い石も黄色い石もはじき飛ばし、回りながら緑色に輝いた。彼女は走った。青い人も黄色い人も、わあわあ叫びながらどこまでも緑のあとを追いかけた。

B:これは何処までリアルなんだろう? 青と黄色を素早く回転させると、緑に見えるの?
A:さあ? 知らないけど、別に何も面白くない話だと思う。
B:うん。「だから何?」系だね。
A:こういう世界を用意するなら、読者に想像の余地を残してほしいと思うね。余地というと多少違うかもしれない。想像を喚起するような仕掛け、かな。
B:どちらかと言うと、物語が欲しい。現状では舞台を提示しているだけで、そこから始まる物語がない
A:そうそう。舞台の描写に終始しちゃってる。
B:語ることがない
A:ないね
<緑の傘12>
たくさんの旅人が、そこで足をとめました。坂道の途中に一本の木があり、豊かに葉をつけた枝が四方に伸びています。幹の横には、古びた椅子が二つ並んでいました。
木の向こう側は、なだらかな斜面です。西に傾いていく太陽を、ずっと眺めていることもできます。
ある時は痩せた青年が、ある時は白い髭の老人と美しい娘が、こんもりとしたした木に包まれるようにして休みました。野良犬がまるくなって眠ることもありました。
木は、その場所がとても好きです。そして、人や動物が大好きです。次にやってくるのは誰なのかを、とても楽しみに待っています。
こうして木は、今日も腕をひろげ、何かをまもろうとするかのように、静かに立っているのです。

B:これは輪をかけて物語が欠如してるね。
A:まあでも、こっちの方がまだ面白い。
B:そうかなあ。どこが面白かった?
A:前のは、非現実の中で、結局は青と黄色を混ぜると緑になる、と現実的なことを言っていただけだったけれど、こっちは現実的な描写を続けて、最後に木を擬人化して非現実感を演出してるから。
B:擬人化と言っても、「腕をひろげ」ているぐらいじゃない?
A:「何かをまもろうとする」というのは、作中人物の視点での擬人化だけど、それもコミで。
B:そうだけど。「だから何?」と言えない?
A:言えるだろうね。ただ、時間が経過する感じがするんだよね、木とかだと。
B:ああ、確かに。
<緑の傘13>
試験管の底に小さなマリモ。
リモコンを覆う紫のラバーケース。
シヴァ神が飛ぶ姿の細いタペストリー。
全部、啓太が置いていったものだ。
啓太は今月に入って、突然いなくなった。

梅茶漬けをかき込んで、響子は茶碗を置いた。
少し蒸し熱く感じたので、窓を開けた。
空は薄曇で、肌に涼しい空気の感触がした。
響子は冷凍庫から、マカデミアナッツチョコレートの箱を出し、
漆塗りのテーブルの上に置いた。
中から、一粒つまんで、口に入れ、
チョコを舐め溶かしながら、マカデミアナッツを舌で転がした。
テレビ画面には、潰れた部屋が、湿気をもって滑っていた。
(私なんも悪い事してないのになあ)
響子は溜め息をついて、座椅子に背をもたれて、体を伸ばした。
天井からは、カエルの顔がデザインされた緑の傘がぶらさがっている。
この傘を差して一緒に散歩したのは、先月末の事だった。
わざわざ雨の中を散歩して、新宿の高架橋の下ふたりで、
セブンイレブンで買った豚串を齧った。
思い出していると、泣きそうになってしまうので、
響子は溜まっていた洗濯物を片付ける事にした。
洗濯機を回して、座椅子に座り直し、ぼーっと、
窓に垂れたサカサクラゲの風鈴を見た。
「カリッ」
裸になったマカデミアナッツを、奥歯で噛み潰した。

「ピーッ、ピーッ」
洗濯機の終了アラームが鳴った。
響子は立ち上がり、マカデミアナッツチョコレートを一つ、
クワイの描かれた小皿に乗せ、啓太の遺影の前に置いた。
その横には、ヨガ体操をする市松人形が滑稽な格好をしていて、
それを見ると響子はいつも、ニヤニヤしてしまう。
啓太は本当に変なものばかり集める。

B:なにこれ。ラスト四行がなければ駄作なんだけど。
A:うん。
B:遺影という単語が出てきた瞬間に、それまでの無粋で冗長でくだらない日常描写が色を持つよね。中々、素晴らしいと思う。
A:そうなんだよね、遺影ときて、そのあとにニヤニヤだから、最後のあたりのインパクトはある。テーマ的なところを言えば、緑の傘がその他のガジェットに埋もれちゃってるけどね。
B:そうだね、その点はちょっとマイナスポイントだね。クワイって何?
A:クワイ? さあ? サカサクラゲもなんとなくしか分からないし、シヴァも名前しかしらないよ。飛ぶ姿のイメージは持ってない。まあでも何か変そうなものだとは分かる
B:シヴァ神はむしろ片足上げて踊っているというイメージ。まあ、分かりそうで分からないラインを狙っているのかも
A:これもどっちかというと「だから何?」系かな?
B:そうかな。作品の中で物語と言うか、作者が見せたいことが完結しているように思うけれど。
A:そうか。日常的で、地味な印象だからかな、なんか特に印象深くは感じなかった。
<緑の傘14>
「雨、止まないね。先生と一緒に帰る?」
 お昼ごろから降りだした雨につま先をぬらしながら、小学校の校舎の庇の下で膝をかかえ、お母さんが迎えに来るのを待っていた。
「ねえ、傘を持ってないんでしょう?」
 みどり先生はふわりとしたスカートを片手でおさえた。
「先生ね、昔、男の子とこんな風に並んで座りながら、お天気の話だけで何時間も過ごしたことがあるのよ。とても、懐かしい」
 雨の中を一生懸命に急いで来るお母さんの姿が見えた。声をかけようとしたけど、お母さんのびしょ濡れの服は、お仕事用の真っ赤なミニスカートだった。立ち上がって、みどり先生の腰に手をそえた。
「なぁんだ、やっぱり、先生と帰りたいのね」
 差し出された先生の足の甲にキスを、目を背けながらすると、その細い足首をつかみ雨の中へとび出した。先生の身体を振り上げ、さっと、雨空にスカートを広げた。

 傘を差して走り去る息子の背中を、母は慌てて追いかけた。

B:うーん。やりたいことは分かるし、挑戦は認めなくもないけれど、いかんせん下手。見せ方が上手くないなー。
A:もうちょっとだね。おお、そうか、とは思ったけれど。お母さんがさして生かされていないようだし。
B:最速、四行目で落ちが分かってしまうのが欠点ではないかと思う。驚きがすべての作品であるがゆえに致命的
A:ああ、テーマからすれば「みどり先生」は確かに。そういえば別に先生でなくてもいいような。
B:仮に見抜けなかったとしても、最後の見せ方はあまり上手くない。もっとミスリードを効かせてほしい。別の何かが緑の傘であるかのように読者の目を背かせておいて、実はそうではなかった! みたいな。
A:かな。もしくは、あっさり「みどり先生」が緑の傘だと言ってしまって、先生と主人公の関係をもっと書くとかね。
<緑の傘15>
 これは道に迷ったというところうまい具合に現れた交番を覗くといきなり
「あ、いかんキミ、そんなの持って」
 と言われた。
 たたんだ傘をばさばさ振ると雨粒が散る。
「ミドリちゃんが出る」 
 おまわりさんがワッハハ笑った。
「え、何がミドリちゃん」
 と背後から人が現れ
「ホラその緑の」「あー」「清水くんちは酒屋で」「酒持ってきた」「さすが」「今はコンビニだけど」
「刺身持ってきた」魚屋から乾物漬物おでん文具八百屋主婦教師サラリーマンおねえちゃんが次々と登場し飲んで酔っての大宴会。
 諦めて交番を出ると
「ミドリちゃんの」「緑の」「お気に入り」「かくされ」「死んで」「いじめられ」「傘持つと」「出る」「やられる」「ぼくたち」「わたしたちは」
 てんでばらばら口にしだすや声を揃えて
「ミドリちゃんが嫌いです」
 ワッハッハ。
「キミごと始末するコトとなりました」
 目のどんよりした人間が首をにょろと伸ばしたか伸ばさなかったかとにかくわらわら追って来るので荷を放り林に逃げ雨の下うずくまっていたら捨てたはずの傘を差し隣りに座った女の子が
「えへへー、あいあいがさ」
 あ、かわいい、と思うが傘から流れ落ちる薄赤い雫をどうしたものか、一緒にエヘヘと笑う。

A:相々傘っていいよね。
B:相愛傘はいいけど、これは無理。
A:ブラックだねぇ。
B:なにがいいの?
A:いや、この話とは関係なく、普通に。
B:いや、相愛傘が、ではなく。この作品が。
A:おっと失礼。
B:何がいいか分からない。
A:ホラーだと思うけど。
B:ラスト一行がなんとなく恐い気はするけれど。
A:はじめ、ただの怪談みたいだった「ミドリちゃんが出る」というのが、「ミドリちゃんが嫌いです」と「ワッハッハ」で一転、人間の感情の怖さが出てくる。ここで宴会との対比で怖さが際立つのも良い点だと思う。そのあとさらに一転、ミドリちゃんが復讐を遂げる? という感じじゃない?
B:あ、なんとなく……。分かりづらくない?
A:文の読みにくさも相まって、ちょっと分かりづらいね。
<緑の傘16>
 引き結んだ口は弱々しい。ルージュの色が泣いている。目もとを隠したひさしがさらに深くなったのは顎を引いたからではなく、肩を落としたから。
 彼女は力なく背を向けた。紡ぐ言葉もない。
 雨。ぽつり。
 僕は一人で傘をさす。彼女には、もはや笠のようにしなだれたそれがある。かつてより随分苔むした。
 ふと立ち止る彼女。小さく肩を揺らした。振り返らない。僕も肩を揺らす。
 残っていた胞子が少し肺に入ったから。
 彼女も、そうなのだろうか。
 強くなった雨脚が、僕と彼女をそれぞれ閉じた。
 僕は吸い込んだ胞子を感じながら、彼女との思い出に浸る。浸れば浸るほど、僕は苔むした。やがてぐずぐずと崩れ苔だけになるだろう。
 そこに残った傘を、彼女は拾ってくれるだろうか。

B:これも読解力を要するタイプかな? さっきのよりは好き。ただ、これ。言葉の選び方が少し下手だね。最初の二文と同じペースで読むと三文目からいきなり狂わされる
A:読解力を要するのか、説明不足なのか、話が良く分からない。
B:一文一文は考えられているけれど、通して読むと不連続。なので、読みづらさが助長されてしまっている。その点がざんねんだと思う。
A:そうだね。各文には面白い表現がたくさんある。
B:「雨。ぽつり。」いいね。ラスト一文も哀愁漂う。
A:いいよね。「僕と彼女をそれぞれ閉じた」とかね。しかし、胞子とか笠とか、そのへんは何を言っているのか、良く分からないな。
B:ううん、分かりそうで分からない
A:そのあたりが、読者に届かないから、ちょっと惜しいと思う。
B:確かに。


B:では集計結果でも見ますか。
A:<緑の傘11>にこんなに票が集まっているのはだなぁ。
B:確かに。物語の欠如が気にならない人なんじゃないだろうか。
A:情景としてもさして面白くないと思うんだけどな。色混ぜただけじゃん。
B:表現に光るところも感じられないような。テーマも処理できてないしね。
A:ねぇ。逆に<緑の傘12>あたりはもう少し票があっても良さそうな気がする。
B:いや、こんなもんじゃないかな。
A:そうか。
B:<緑の傘13>は集計結果を見れば、いかにも逆選向きな作品だね。
A:まあ未だに私には逆選がどんななのか良く分かってないけれどね。
B:<緑の傘14>はいくら次点でも入りすぎじゃない? この程度でいいのかと思う。
A:どういうこと? この程度でって。確かにこんなに票が集まるのは不思議だけど。
B:いや、だって<緑の傘14>に次点をあげるぐらいだったら、もっと他に次点をあげるべき作品があったじゃない。今までに。
A:あった。いろいろと思い出せる。何の程度のことを指して、この程度、と?
B:うーん、作品のレベル?
A:ああ、了解。
B:<緑の傘15>は不可解。読解力が足りていないだけかなあ。それとも分からない作品に正選を放出しちゃっているだけなのかな。
A:これは確かにね。こういうのは逆選じゃないんだね。ますます逆選が分からない。
B:これこそ逆選な気がしないでもないけどね。
A:ねぇ。
B:<緑の傘16>は、まあ、分からなくもない。今までの傾向からして、正選がひとつやふたつあってもおかしくないような気がしないでもないけど。
A:むしろ正選と逆選に分かれるかと思ったけれど。
B:そうかなあ。これは逆選じゃないでしょう。けれんみがない。
A:けれんみ。はぁ、なるほど、分かるような分からんような(苦笑) まあ、こんなところかな。今日の中には、特に群を抜いて面白いと思ったのはなさそうな気がする。
B:<緑の傘13>がよかったよ。
A:今日の中では一番だね。
B:うん。テーマをスルーしてるけどね。
A:まあね。明らかな欠点がある話が多かったね、今日は。
B:「だから何?」系はもうお腹いっぱい
A:そうだね。言うこともないから、やる気が削られてくし。だったらやるな、って話かもしらんけど(笑)
B:いやいや、これは書く方にもっと考えてもらわないと。『何故、あなたは超短編を書いているのですか?』と「だから何」系の作者ひとりひとりに問い詰めたい
A:そのへんは確かに、作者さんたちに考えてほしいね。とまあ、今日はこんなところ?
B:じゃあ、また、明日。
A:うい。また明日。
posted by A&B at 17:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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