2006年07月07日

緑の傘編(05)

<緑の傘22>
 追いかけっこに疲れたのであっくんと一緒に木蔭で休む。ぬしさまと呼んでいるその木は、あっくんと二人、向こうとこちらで手を繋ぎ合ってわっかをつくろうにも抱えきれないほど太くて大きい。葉っぱは緑色が濃くて奇麗だ。幹は特別ひいやりとしている。
 ぬしさまの下は静かで涼しい。
 追いかけっこの途中で、あっくんとキスをした。瞼を閉じたら陽射しに射られた。上瞼と下瞼が合わさった瞬間、じゅッと熱がはじけた。重ねた唇にも電流が走ったみたいになって、吃驚した私たちは慌てて体を離した。極まり悪さをごまかすように力いっぱい追いかけ合った。
 並べた膝が触れ合ったから、ぬしさまの下でもう一度、キスをした。最初はおずおずと、それからひしひしと。
 ぬしさまの下は静かで涼しい、閉じた瞼に熱ははじけない。唇の温度は嘘みたいに心地よかった。うっすりと目を開けると、触れ合った膝にぬしさまの影。

B:完成度が高いと思ったけれど、二点だけ気になった「瞼を閉じたら陽射しに射られた」と「極まり悪さ」。前者はかなり大きい木のようだけど、陽射しが葉の隙間から突き抜けてきたってことかな? 後者は「極まり悪い」っていうの? ……辞書を引いてみた。言うみたいだね、極まり悪い。
A:言うだろうけど、この字面からだと「極悪」を想起してしまうから、なんだか不似合いな気がした。というか、そんなに完成度高い?
B:え、感じないかな。なんだか読んでいて心がほんわりあたたかくなったよ。いい話じゃない。
A:いい話だし、綻びって点ではできているけれど、表現とかは特に普通じゃない?
B:「ひいやり」や「おずおずと、それからひしひし」あたりは、なかなか書けないでしょう。良作だと思うよ。
A:「ひしひし」は、まあ、そうかな。
<緑の傘23>
雨の日の朝、玄関を開けると河童が立っていた。
大きな葉っぱを傘代わりに差している。
何用かと聞けば、旅の途中で腹が空いたので胡瓜を分けて欲しいという。
私は快く家に上げると、胡瓜を三本と酒を用意した。
一升空く頃には河童も饒舌になり、これまでの旅の話をとめどなく語りだした。私はその興味深い話に耳を傾けて、時には笑みを浮かべた。
私と河童はまるで十年来の友人のように、すっかり気の置けない間柄になっていた。
夜が明けると、河童は礼を言って旅立っていった。
河童を見送った後、いつも誰彼かまわず吠える飼い犬が静かなことに気づいて、犬小屋を見に行った。
犬が、犬小屋の傍で横たわっている。
私は、しまったと呟いた。
犬は、尻子玉を抜かれていた。
私は呆然として空を見上げた。いつの間にか、雨はあがっていた。

B:失礼な河童だなあ……
A:なんでまた尻子玉を抜いていったのやら不明だね。河童だからというだけなのかな? あ、「誰彼かまわず吠える」からか。
B:よく相撲で勝負して、負けると尻子玉を獲られるとか言うよね。色々な説があるとして、キュウリと酒をただで貰っておきながら、そういうことをするのは、いかがなものかと思う。
A:それ以前に、吠えられてうるさかったんだろうね、きっと。
B:飼い犬の尻子玉をゲットしてから、物乞いに来るってどーよ?
A:失礼だね。でもまあ種族間の違い、か?
B:気に食わんなあ。
A:河童を使ったのが特徴というくらいの話かな。他には別に良くも悪くも感じないけれど
<緑の傘24>
 ああそう言えばあの色に銅色の骨が不自然だと思ったかもしれません。ぱらぱら水玉が透けて見えていました。傘の内側を眺めたのでしょうか、私は。
 変な話です。傘から流れた水滴がざあと、背の後で立てた音、そればかりが残っております。今その音ばかり聞こえます。ざあと。
 変な話です。日陰者などと自分を貶めた言葉を使うくせに目立つ色が好きでした。
 あの日、あの時、判っていただこうとは思いませんが、異界であったのです。
 Jの向こうに蛙の口が見えました。そこではじめて、私はあれが絡め取るものだと知ったのです。
 口が横ににいと開いた時に逃げ出せばよかった。遠い西の空の光輪にただ一時、目を奪われた隙に身体は絡め取られておりました。私は怖かったのです。
 腐った匂いのする菊でした。菊は緑の中で足を踏み鳴らしました。足元で水が緑を映しながらはねました。Jでしたか、菊でした。腐った色の汁を飛ばしました。あの色はなぜ、地面に落ちると赤く見えたのでしょう。ああ、傘ですか。では赤だったのですか、腐った汁が、赤い。変な話です。
 それで、私はいつ帰れるのでしょう。J? はい、存じています。何かあったのですか?

B:いいんじゃないかな。
A:どうでもいいんじゃないかな。
B:え、そうかな。まあ、それほど入れ込んでいる訳じゃないけど、少しは肩を持とう。最後の一行はよく分からないけれど、それまでの会話文で世界観を見せるという技法は面白いよ。Jと人物名が頭文字になっているところから、なんとなく作品がインタビューの記事風で、なんか変な雑誌に載ってそう
A:個々のガジェットを妙な書き方で魅せるという点では、良くできていると思うけれど、総合してみても、別に世界観は見えないと思う。
B:うん、そうだね。もう少し光るところがあれば、戦ったかもしれない。
<緑の傘25>
撃墜。そして仕事終了、空から落ちてくるのは緑のパラシュート部隊。次々に落ちてゆく。
落下点は公園だ。公園には多くの人々が居る。皆それぞれの理由があって来ているのだが、空からパラシュートが落ちてくると、あ、放射能がやってくる、気をつけろ、と言いながら一旦離れ、やいやいとか何か言いながら屋台で買った卵をパラシュート部隊へ投げつける。中には大層グロテスクな代物もあるのだが、パラシュート部隊はもう慣れてしまっているので気にしない。
それよりも彼らはサボタージュする気で満々だ。
そのまま彼らはバラバラに解散し、ある部隊員はマックへ、ある部隊員はモスバーガー、ある部隊員はサイゼリヤへ行こうとする。
一番目的地まで遠いマックへ行く部隊員はパラシュートを引きずりつつ、タクシーを呼ぶ。防護服を着たタクシー運転手に駅前のマック、と言うと運転手はへい、と言ったがなかなか車を発進させない。ドアが開きっぱなしなのだ。
お客さん、ドアを閉めてください、と運転手は言うが部隊員はなかなかドアを閉めない。
部隊員は空に広がる茸雲を見ていた。どうやら次の部隊は失敗したらしい。
公園の、観光客と思しき防護服を着た二人連れが代わる代わる茸雲をバックに写真を撮る。
お客さんそろそろ怒りますよ、と運転手が言ったので部隊員は相済みませんと言い車はマックへ。
もうじき雨は降るだろうがこの街は美しい。

B:いいじゃんいいじゃん。茸雲以降はちょっと現実味が出てきてしまってそうでもないけれど、それまではどこか浮世離れしている感じがいい味出してるんじゃない?
A:そうだね。「サイゼリヤ」は「ロッテリア」とかのが統一感があると思うけど。
B:確かに、この三つの中ではサイゼが浮いているね。ロッテにするんだったら、マック→ロッテ→モスの順がいいね。ファーストキッチンでもいいかな。……なんとなく妄想代理人のオープニングを連想するね。
A:そうかな。茸雲つながり?
B:うん、後は雨とか、にこやかに笑っているところとか。
A:この部隊員からは、どっちかというと表情が無いような印象を受けるけれど。
B:え、そうかな。部隊員も見ている人も運転手も、この得体の知れないいびつな世界観に沿うようにへらへら笑っているような気がするけれど。
A:見ている人は、へらへらしてそうだけど、運転手はせいぜい営業スマイルくらいだと思うな。まあ感じ方の個人差だろうけれど。
B:まあ、そうかもね。
A:逆に言えば、そこまで読者に踏み込む力は、この話にはないよね
B:ないけど、その代わりに軽さが生まれていて、その軽さがいいと思う。
A:だね。諦観めいた感じは良いと思う
<緑の傘26>
 もう何日も雨など降っていないのに、玄関に濡れた傘が置いてある。傘の色をあいまいに映した小さな水たまりもできている。「誰か傘を使ったの?」なんて、家族には訊けない。訊いたら、誰かが姿を消している気がする。

B:とくになし。
A:ないね。
B:少しを見せることで、多くを読者が想像してくれるのを期待している作品なのではないかと思うけれど、想像を許すだけの力に欠けている
A:雨が降ってないのに濡れている傘、と、訊いたら誰かが消えている気がする、というのが、少し見せていることなんだろうけれど、ここから想像するのは、せいぜい、何か水をよけるのに傘を使ったのか、ということと、気のせいじゃない、ということくらいで、これらを繋げて考えるような方向には想像が進まない
<緑の傘27>
 雨の日がいちばん好きな娘は、赤い傘を差して蓮の花咲く池のふちでカエルの合唱を聴いているときに、池の主である大フナ様に見初められて水の世界にやってきました。
 池の底で、娘と大フナ様はしあわせに、おだやかにすごしておりました。娘は大フナ様を愛していました。しかし、緑色の水面を見上げては、ときどき溜め息をつくのです。蓮の葉のすきまに、いくつもの小さな円が生まれては消えていきます。娘の好きな雨は水面で波紋を広げるばかりで、一粒も底までは届かないのでした。
 やわらかな泥の中で、娘は雨のにおいを、傘の上を転がる軽やかなリズムを、カエルたちの歓びの歌を思います。池の主の妻になった娘には、地上で雨を感じることはもうできません。雨の降る日は娘の溜め息が泡になって、いくつも水面にあがりました。
 ある日、娘が水面を見上げていると、丸い影がゆっくりと降りてきました。一枚の大きな蓮の葉の茎をつかんだカエルたちが泳いでくるのです。
「これは、大フナ様からの贈り物です。ゲコ」
 娘は驚いた顔で蓮の葉を受け取りました。大きな蓮の葉は、彼女の頭の上で広がります。まるで、大好きな傘のように。娘の顔に笑顔がひろがりました。
「あなた、ありがとう」
 照れた大フナ様は、尾ひれを揺らして答えました。

B:変わった世界観だけど「だから何?」系だよね、これは
A:「ある日」以降で一気にパワーダウンしたね。前半は、なかなか魅力的だと思う。わざわざ蓮の葉の傘を出さなくても、テーマは十分に書けているし、どうせなら、この世界らしい結末をもってきてほしいと思った。
B:そうかなあ。一行目は一文が長すぎだし、二行目で、いきなり「娘は大フナ様を愛していました」だなんて。わっけ、わかんねー
A:お伽噺的な構成ではあるから、特にそこは気にはならなかったけれど。
<緑の傘28>
むきになってあんなに日差しの強いジャングルを歩き通したりするからだ。
行く手を遮る下草や蔦をものともせずに猛然と進む彼女が、それでもなお頑なに差し続けていた白い日傘は、生命力に溢れた木々の色を捉えて離さなくなってしまった。

今も薄暗いアパートの玄関に、あのときの木漏れ日を乱反射し続けている。

B:これはちょっと面白いちょっと好き
A:うん。悪くないと思う
B:もう少し長くてもいいね。
A:かな。猛然と進む様子とかのあたり?
B:ショートショートっぽくしても、最後の一行があれば問題ないでしょう。
A:この最後の一行はいい感じだね。
B:ツンデレお嬢様と執事みたいな感じの話なんてどうよ?
A:なに、とつぜん?
B:いや、この話をもっと膨らませるとしたら
A:いやぁ、そのへんのディテールはいらないよ。彼女、ってだけで十分だと思うけど
<緑の傘29>
 傘の日続きでうんざりだ。けど雨を降らせず出歩くわけにはいかない。地球漂白化の影きょうあっ。路地から飛び出た少女に僕は吹っ飛ばされ雨を降らすのがおろそかになってしまったそのとき傘が閉じたままぶすり、腹を刺した。
「ごめんなさい。大丈夫?」と少女は言った。
「うーん」
 僕から傘を抜き、おんぶして、少女は来た道を引き返す。素敵なワンピースだなあ。汚れないかなあ。雨を降らせていないのに傘は僕たちのはるか上空でひらく。古い一軒家へ入ると少女は自分だけ靴を脱ぎ僕を玄関に寝かせた。
「目をつむってて」
 衣擦れの音。脱いだワンピースを僕の胴に巻きつけているようだ。遠ざかる足音。漂白化のせいなのか僕の目が霞んでいるだけなのか、下着と区別がつかないほど白い肌。
 目覚めたとき、少女は何も身につけていなかった。
「目をつむっててって言ったでしょ」
 僕からワンピースを取りあげる。傷はすっかり癒えていた。ワンピースにも少女にも染みひとつない。
「もしかしてそれは緑の傘で?」僕は尋ねた。
「これが最後の一枚」
 時間を確かめるまでもなく、少女も僕も、約束にはもう間に合わないだろう。まあいいさ。どうせ外は白い傘なのだ。

B:よく分からないけど、えろいから良し
A:まあ、他に取り柄が見つけられないし、そういうことでいいんじゃない。
B:書かれてある内容は、とにかく分からない。雨を降らせるとか、漂白化とか意味不明。でも、例えば一行目の「地球漂白化の影きょうあっ」は、語り手が独白している最中に少女と激突して「あっ」ってことでしょう? なかなか、上手いんじゃないかな。全体的にリーダビリティ高いし、好き。
A:最初は「地球漂白化の影」と読んで、なんのことか分からなかったよ。そんなにリーダビリティが高いとは思わないよ。
<緑の傘30>
 老人はあざやかな緑の傘を差して歩く。雨の日も、晴れの日も。
「どうして傘を差してるのさ?こんなにいい天気なのに」
と若者に問われて、老人は皺をさらに深くして笑った。
 次の春、老人はすでにこの世にはいない。だが、老人の歩いた道には色とりどりの花が咲いている。老人の歩みそのままに、小さな花がぽつりぽつり。
 花が途切れたところに、老人が差していた緑の傘はあった。柄には札が付いている。
「あなたの最期の花道、作ります」

B:もし、この作品が深読みを要するものではなく、そのままだとしたら、嫌い。
A:今のところ、深読みする要素が見当たらないし、私も好みで言えば嫌い。
B:キッチュに過ぎるでしょう。身震いする。
A:うん。やっぱり深読みする余地が見当たらない。それどころか、傘が緑である必然性すら、見えてこない
<緑の傘31>
傘がいっぱい並んでる。
赤い傘が欲しいのに
緑の傘しか置いてない。
かさはどいつも裏返し
雨水たまれば重たいし
ほねは骨なしこらえなし
雨水ちゃぽんと全部落ち。
丸々肥えた子供らは
首をはねてはお供えだ。
八月十五夜お月さん。
緑の傘は捨てられた。

B:縦読み?
A:え、縦読み?
B:いや。どこを縦読みすれば、意味ある文章になるの? とボケてみました。
A:ああ、びっくりした。私の知らない日本語がこんなにたくさんあるのかと思った、とボケ返してみよう。
B:もー! 人にギャグを説明させるなよう。思わず敬語になっちゃったジャマイカ!
A:とまあ、どうでもいいことを言うしかないくらい、どうとも思わない作品なんだと思うけれど。
B:ね。毒にも薬にもならん。
<緑の傘32>
 今日はわたしのためにお集まりいただき、ありがとうございます。
 17年間全力で戦ってきましたが、本日をもちまして、現役を引退することを決意いたしました。
 プロ生活2年目で初めて立った神宮球場のバッタボックス。痺れました。スタンド全体がわたしのために東京音頭を唄い、わたしのために傘を振り・・・もう一度ここに立ちたい。何度でもここに立ちたい。この景色を独り占めしたい。その一念が、今日まで現役を続けさせたと思います。
 できることなら、死ぬまでずっと神宮球場のバッタボックスに立ちたいのですが、それは叶いません。想いだけではプロであり続けることはできませんでした。
 ファンの皆さんには心から感謝をしています。この想い出があるから、これからの人生も生きていけます。願わくば、今度はわたしも一緒にスタンドで傘を振らせてください。
 今日は本当にありがとうございました。

B:意味がよく分からない。どういうこと?
A:引退の挨拶かな。緑かどうかは、野球チームを知らないと分からないような気がする。私には不明。
B:なんか深い意味がありそうな気配はあるんだよね。
A:どうだろうね。挨拶文としては、わりあいありがちな気がするし。
B:促音ー、じゃなくて。拗音ー、でもなくて。「ー」って、なんだっけ?
A:音引き?
B:まあ、コンピュータとかプリンタとか、「ー」をよく省略するじゃない。この作品ではバッターボックスの「ー」が省略されて、バッタボックスになっているように読めるけれど、実は虫のバッタなのかも。
A:ぬぅ、そうくるか。
B:調べた。長音というらしいね。「ー」は長音符号。
A:ここによると「東京音頭で振る傘は、緑(または青)のビニール傘もしくは球団が発売している傘が一般的であるが、特に決まっているわけではない。」だそうな。東京ヤクルトスワローズというチームの本拠地が明治神宮野球場らしい。
B:呆れた。今、一生懸命、語り手が虫なら神宮球場・東京音頭・傘は何かの比喩かもしれんと頭を捻っていたのに。まさか、緑の傘というテーマから、東京音頭を連想して書いただけの作品ってこと?
A:うーん。比喩だとしたら、明治神宮とか、東京音頭の歌詞とかにヒントがあるかな? そこまでフォローするのは面倒だな。
B:今、すっごいテンション下がった。
<緑の傘33>
 まっとうのにいっちょんこん。
 傘みたいな形やろと良雄さんがいっとった。やけん雨ん降ったらここに来ようち。
 ばってんひどか雨やと、葉っぱの間から、ぼたぼた水滴が落ちてくる。あんまり役にたたんばい良雄さん。しっとった?
 雨はざわざわふっとうのに、良雄さんはいっちょんこん。
 暗いけん眠くなってきた。
 
 シロ、シロ、起きんね。

 お母さんの声と匂いと手のひら。
 いつのまにか明るくなっとる。
 お母さんの頭の上に、葉っぱの傘が、ざわざわまあるく広がっとる。
 飛び上がってお母さんの顔を舐める。濡れとるけんやか、なんかしょっぱい。
 お母さんの手が背中を撫でる。
 あの子はこんとよ。
 ばってんおかさん、すぐくるけんていよったよ。かさばもってくるけんて。
 お母さんに抱かれて空を仰ぐ。
 雲の切れ間から光がこぼれた。雨やんどる。
 どこからかつん、と煙の匂い。
 お母さんは振り返るらんで、ずんずん歩く。
 すぐくるっちいよったとよ。
 お母さんの肩越しに、緑の傘を見る。
 遠ざかったその木の下で、良雄さんらしき影が手ばふりよる。
 ほら。やっぱきたばいおかあさん。
 ワンと一声。
 お母さんは立ち止まって泣きださした。

B:よく分からないんだけど、いい話?
A:いい話、かな。方言の使い方が巧みだよね。一行目で、いきなり読めなくて困ったけれど、その謎解きも作中で自然にされているし。この言葉遣いだからこその温度感みたいなのもあって、さらに良いと思う
B:正直なところ、こういう方言は慣れていないので読みづらい。そのせいで誤読していないか、心配。
A:逆に、一行目が無かったら、そのあと慣れるまでずっと辛かったと思う。これがあるから、あ、方言なんだとすぐに分かったと思う。
B:「いっちょんこん」は「行ってしまった」?
A:一向に来ない、だと思う。
B:ああっ、「待ってるのに来ない」!?
A:そうそう。
B:おおおお。理解できると快感だなあ
A:音読したりすると、わりあい分かりやすいかもよ。
B:え、ええええ! もしかして、これって悲しい話!?
A:悲しくもあるね。
B:いかん。泣きそうになってきた。涙腺、弱いのだから、もう、マジ勘弁してほしい。
A:おそらく犬かと思われる「シロ」の一途さというか健気さを思うと、いい話、かな。まあどっちにしても悲しいけれど。でも方言を使ったことも含めて、良くできていると思う。B、泣き止んだ?
B:泣き止んだ。これ、傑作だね。素晴らしい


B:じゃあ、集計結果でも見るかな。これで<緑の傘33>の評価低かったら、違う意味で泣くな
A:確かに(笑)
B:<緑の傘22>は意外。もう少し、点数、入ってそうなのに。
A:まあもうひとつ次点に、とかくらいかな。
B:<緑の傘23><緑の傘24>は飛ばして、<緑の傘25>はやや逆選的だと思うけどなあ。
A:というか、これでもたくさん票が入っているような気がする。まあ<緑の傘26>ほどじゃないけれど。
B:それ、今、驚愕中。<緑の傘26>の何がそんなにすごいの?
A:ね、どこを見たら、これに票を入れる気になるんだろう。不思議。
B:いやいや、不思議とか言っている場合ではないよ、A。真剣に考えよう。彼らはこの作品に何を見出したのだろう
A:そっか。頑張ってみるか。知らない人の思考を追うのは難しいけども。
B:…………ううん、分からん。解釈は何通りか可能だと思うけれど、どれも正選を与えるほどじゃない。もし、多様な読み方ができるが故に評価されているのだとしたら、他にもいっぱいあったし。謎だ。
A:何度読んでも、音読しても、文が空回りしてるだけで、なんとも面白味すら感じなくなってきた
B:同じく。もういいや、次、見よう、次。<緑の傘27>は、まあ、スルーされるよね。<緑の傘28>も妥当なところかな。
A:うーん<緑の傘27>は次点にいくつか入っても良かったと思うけどな。
B:まあ、次点ならね。
A:<緑の傘29>と<緑の傘30>もこんなもんかな。
B:<緑の傘31>もいいでしょ。
A:そうだね。
B:問題は<緑の傘32>なにこれ?
A:うわあ、また、信じられない結果だなぁ。
B:ってゆーか、さー。悪いけど言うね。これ、フルヤマメグミさんが◎出してるじゃない。この作品って作品として評価されてるんじゃなくて、野球をネタにしているから評価されているんじゃない?
A:野球に思い入れがある人なら引退の挨拶は感動ものなのかな、そういうだけのこと? 作品としての評価じゃないよね
B:多分、逆選として投票している人も同じなのだと思う。野球ネタを上手く使ったなあという理由で。
A:なんかアンフェアというか、そんな感じがするなあ
B:まあ、逆選はいいけどさ、正選として推すにはどうよと声を大にして言いたい。舐めてるんじゃないの?
A:あんまりだね。他の良作に申し訳ないと思う。
B:もうね、この結果にどうしてこんなにも怒りを感じているかと言うと、すぐ、真下に見えている<緑の傘33>の評価の方が低いからだよ!
A:そうそう。この分をもっと<緑の傘33>にまわせばいいのに
B:正選2点て、いくらなんでも、あんまりでしょう! まっとうのにいっちょんこんだぜ、まっとうのにいっちょんこん!
A:ねえ。本当に、どういうわけなんだか。真面目に読む気はないのか投票者諸氏は。
(中略)
B:じゃあ、まあ、また明日。
A:また明日。
posted by A&B at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。