2006年07月15日

MSGP 2006 2nd(01)

 MSGP 2006 2nd ROUND を取り上げ、対談しています。
 まだ選評を済ませていない方は、閲覧をご遠慮ください。
▼▼ 第1試合:『君の隣には』▼▼

赤コーナ: 水池亘
「この人が私の彼氏だよ」
 そう言って彼女が訪れた時、僕は何を言っているのか良くわからなかった。

 すべてを悟るのに一時間かかった。

 今日も彼女は「彼氏」と一緒に僕の部屋へ現れる。
「ほら、あーんして」
 彼女はカップからアイスをすくうと木のスプーンを隣の虚空へ差し出す。溶けたアイスが滑り落ちてべちゃりと床を汚す。
 わかっている。これは罰だ。
 僕には絶対に見ることの出来ない、彼女だけの「彼氏」。僕なんかより遥かに彼女にふさわしいに違いない「彼氏」。その存在を僕は受け入れなければいけない。
 それでも。
「おいしいねー」
 本当に嬉しそうに隣の「彼氏」へ微笑む彼女を見て、僕は呻き声を漏らさずにはいられない。

青コーナ: 銭屋龍一
 窓を締め切っていても雨の匂いは部屋の中にまで忍び込んでくる。

 目を閉じる。僕は霧雨の中に立っている。赤いパラソルが揺れている。
 あの坂道でいつも君と待ち合わせをした。君は元気なときには必ず赤いパラソルをさして現れた。だから赤いパラソルはしあわせのメロディーを奏で続けている。
 坂から見下ろした海は水平線までの間に外国航路の貨物船を何隻も見ることができた。
 僕はまだ行ったこともない国の話をする。君は興味深げにその話を聞いてくれる。
 君の笑い声は僕の心の深いところを心地良く揺さぶってくる。

 愛を知った分だけ孤独は深くなった。
 幾つも幾つもの季節が過ぎ去った。
 君は誰よりもなつかしい人になった。

 僕を愛したように今君は他の誰かを同じように愛しているのだろう。
 そこにいる顔のない人物に僕は嫉妬と深い悲しみを抱いてしまう。
 そしてそれはたぶん死ぬまで変わらないだろう。

 雨の季節は少しだけあの頃に近い。

B:青コーナがよく分からない。もしかして、ただ単に昔の彼女を懐かしんでるだけ?
A:雨で昔の彼女を思い出した、ってことでしょうけれど。ううーん。ひっかかるのは「元気なときには」という条件。「赤いパラソルをさして現れ」るのは、まあいいとして、人間なら、雨のときくらいでしょう。傘を差すのは。この昔の彼女はいったい何者? そういう疑問は少し残るかな。
B憂鬱なときは、緑の傘を差していたのかもしれないよ
A:降っても晴れても?
B:日傘ってことじゃない?
A:雨で彼女を思い出すことの根拠が薄くなる、それだと。
B:そうだね、言われてみれば。……赤コーナは水池亘さんだけど、今回はわりと分かりやすいね。
A:分かりやすいような、そうでもないような。
B「だから何?」系ではあるけれど、床に落ちるアイスのイメージが狂気的でいいと思う
A:罰になっているのは、どうしてだろう、とか、受け入れなければいけないのは、なぜだろう、とか。
B:どうして彼女が僕の元を訪れて彼氏を紹介しているのか、という点まで含めて世界観を広げようとしてるんじゃないかな
A想像の働く余地が大きいよね。大きすぎない程度に。
B:そう、浮いた科白も妙にリアリティがある。けれど、その一方で「すべてを悟るのに一時間」だなんて片手落ちもある。一瞬で分かるでしょ。
A:いや、単に片手落ちで片付けてよいものかどうか。
B:何かありそう?
A:本当に罰なんだろうか、本当に受け入れなければならないのだろうか。とかいう作中でハッキリしてない点と、一時間もかかった点を整合性をもって想像できないだろうか。
B:ふうむ。分かるような、分からないような。
A:どういう状況なら相応しいだろう、と思うと、少し分かりにくい気もする。
B:投票するなら赤コーナかな。勝ち抜きそうなのは、どっちだろう。赤コーナじゃないかなあ
A:そうだねえ。青コーナも悪くはないと思うのだけれど、赤コーナの方が気迫があるっていうのかな、読者に訴えるものが強いよね

▼▼ 第2試合:『絶対解』▼▼

赤コーナ: マンジュ
 娘たちはみな裸で、左右どちらかの小陰唇に焼き鏝で数字を刻まれている。窓のない四角い部屋に何人もいっぺんに押しこめられ、体を堅く閉じ蹲っている。互いの呼吸は近く、触れ合った肌は汗ばむほどなのに震えはやまない。裸電球に飛びこんだ虫が落ちて死ぬ。
 その男には揺るぎない地位と財力があり、誰も知らない秘められた館で娘たちを代わる代わるいたぶることを享楽としていた。娘たちは男を満足させられればその日一日を無事にやり過ごし少ない飯にありつくことが出来たし、そうでなければその場で命を落とす。
 娘たちはかつてにぎやかな町で愛され、育った。親がありきょうだいがあり恋人があり、鮮やかな日々があった。今や娘たちには死のにおいの色濃い澱んだ日々しかない。
 一日の終わり、薄べったい毛布にくるまりながら娘たちは繰り返し同じ夢を見る。いつか、愛した男が自分を救いだしてくれること。顔立ちも年齢もさまざまだろう、故郷も生い立ちもさまざまだろう。ただひとつたしかなのは、どの男も、娘を守り抜くための逞しい腕を持っている。

青コーナ: 影山影司
  江戸城の中庭にて忍装束に身を包み、構える者二人あり。闇夜黒装束の中で、眼のみ灼け爛々と光る。
 短刀を構える上忍の名を角牛刀の絶と言い、それに対するは両腕に縄を巻いた糸色の解。
 両者、五体満足で生き残る算段は無い。最悪互い死、最善で手足の一本も失おうと覚悟を決めていた。
 その様子を眼鏡越しに眺める大名達が卑秘と笑う。そして始まる見せ物試合、絶対解。

 縮地にて接近。緊迫して構え、牽制、構え退き、牽制。錬磨と経験を繰り返した神経が、数十手後を予見し合う。

 実力は拮抗。

 否。読み合いを百幾らか繰り返した後、筋骨に一回りの利がある絶が、豪腕を振るうて刀をねじ込んだ。解の忍具「絡糸」が絶の腕、刀をギリリと握る。皮膚が裂け、肉が千切れても構わぬと、絶は力を込めた。刹那、三十六手後の死を感じ、解の顔から血の気が失せる。

「兄貴、死にとうない」

 不覚、絶の覚悟が淀んだ。
 反射、解の本能が躰を突き動かす。絡糸が牛角刀をペキリとへし折る。
 続行、絶は全身を絡み取られ、
「そうじゃの」
 とだけ言い残し、バラバラに解体されて息絶えた。 



 その後の解の行方は誰にも解らぬ。

Bやっべ、青コーナ最高じゃん! 中原昌也と山田風太郎を足して二で割ったような感じに思う。爆笑した。素晴らしい
A:角牛刀の絶と、糸色の解、どっちがどっちか分かりづらいねえ。
B:え、そんなのは些細な問題だって。ふつうは「絶対的な解答」と受けとるところ、「絶と解の対決」にスライドしているのに加え「角牛刀」や「糸色」だなんて、ものすごい脱力じゃない。もう傑作。
A:「絡糸」とか出さずに「糸色」にしなかったのは、どうして?
B:それは分からない。どうしてだろうね。うーん「絡み取られ」って描写をやりたかったから、かな。
A:まあ、そんなことより、赤コーナに注目している。『絶対解』から、こうくるとは。もちろん、良く分からないんだけどね。
B:え、話はわりあい単純でしょう。どうして「逞しい腕」かは、よく分からないけれど。
A:どのへんが絶対解?
B:どこらへんがって、そりゃあ過酷な状況に置かれると白馬の王子様を夢見るのは必然だよねってことじゃないの?
A:うーん。そうなんかな。引っかかったのは「愛した男」と過去形になっている点と「救いだして」くれることと「守り抜く」ことは、ちょっと違う行為だと思う点
B:え、むしろ、どうして「逞しい腕」が共通しているのかが気になる。そこに何か必然性はあるの?
A:ああ、そうだね。だから、実際に愛した男はいて、今はみんな守るだけの腕力はついた、ってことかな?
B:いや、よく分からない。崇拝してるんじゃないかな、逞しい腕を持った男を。偶像のように。
A:逞しい腕というのが、別に腕そのものじゃなくて、力の象徴的な比喩として使われている可能性はあるよね
B:そう言葉にされると説得力あるね。そんな気がしてきた。
A:娘たちのいた、にぎやかな町では、「親がありきょうだいがあり恋人があり」ってことで、一応、愛した男は居たんじゃないかな。
B:かもしれないね。
A:裸電球に飛びこんだ虫が気になるー。
B:それは、いわゆる娘たちが置かれた環境の劣悪さを示すガジェットじゃない?
A守り抜くことができるだけの力を持った男たち、でも救い出すような攻勢に出ることはできない、あるいはしたけれど、虫のように落ちて死んだ、とか思うのだけれど。
B:ほほう。虫=救いに来ようとした男、ってこと? 面白い解釈だね。
A:うん。それで『絶対解』なんだけれども、なんだろうね。娘たちにとっても、男たちにとっても、この状況を打破するための絶対的な解答が見つからない、てことか、あるいはこの酷い男が絶対的だと言いたいだけなのか。どうなのかは良く分からないけど、いろんな解釈が可能なのはこの場合は面白いと思う。それとその解釈のためのヒントを作中に散らしてあるというのも、上手いね。
B:そうだね、うん、同意。
A:そういうわけで、赤コーナがいいなあ。
B:脱力する感じが好きなので圧倒的に青コーナを応援するけど、それがあるから第二試合は赤コーナが制しそう。

▼▼ 第3試合:『虹の歩幅』▼▼

赤コーナ: 松本楽志
 ふらついた犬が村なかを歩く。よくよく見れば、右手左脚を出すとき、また、左手右脚を出すとき、その傍らを素早くよぎるものがある。その歩みを写し取ろうとするかのように寄り添う影がある。しかし、その影はただむやみに細長く、複写とも模写ともほど遠い様子であった。やがて犬は脚をもつれさせて斃れた。息絶えたのは村長有する広大な休耕地のただ中である。犬の死骸が土に還るにつれ、土地は陥没し、ついに巨大な穴が現れた。当面使う予定のない土地故、村長が穴を埋めかねているうちに穴を見るために旅人が数多く訪れるようになった。虹の根もとにあるなにかを求めて来たと言うが、その立ち振る舞いが悉く軽薄でまったく信用がならない者ばかりである。やがて礼を失した旅人が穴をさらに掘り進む始末。村人が集い、旅人を罰しようとするその最中、穴の中から無数の影が湧き出す。影は連なって長く長く伸び、その連続さを恥じるそぶりで消えた。それを見た村人は、その日から歩みがぎこちなくなってしまう。どうもどこかへ向かって調整されている気がしてならない。だが、その調整が終わるまえに、戦争が起きて村は消えてしまった。

青コーナ: はやみかつとし
 この円い遠浅の入江に棲む七色のアメフラシは、雨が上がるとその体内に光が点り、天空いっぱいにざらついたミラーボールのような虹を投射する。
 だからおまえは、水に足を踏み入れるときは気を付けなくてはならない。それを脅かさないように、ゆるやかに波打つ水面を透かして白い砂地に目を凝らしながら歩く。すると、不意にそれは足元で輝いたのだった。揺らめきながら体の前半分を撫でるように拡がる光におまえは一瞬、空に架かった虹をまるごと跨いだような気がして、誇らしくなる。だがそれきり入江には暫く晴れ間が覗かなくなった。燻るような弱い雨がいつまでも続き、おまえは青空を盗んでしまったのではないかと畏れて無口になってしまう。
 そんなことがあったのを、おまえはやがて忘れてしまう。遠い年月の先のある日、子供が浅瀬にしぶきを上げて虹を追うのを眺めながら、ふいに自分はあの虹のたもとまで行けたことがあったような気がするが、かぶりを振って心地よい眠気のなかに戻るともう別のことを考えている。

B:分からん、無理。
A:青のがいいかな。
B:あ、ほんと? 実は私もなんとなく青コーナ。でも理由が分からない。
A赤はなんだか、単に文を続けただけのような気がする。何を書こうとしているのか見えない。
B:ふむふむ。
A:でも、青はなんとなく、イメージが湧く。たとえば、「ミラーボールのような虹」とは、太陽の比喩なのかもしれない、とか。
B:おおう! 言われてみれば、なるほどね。
A:アメフラシを「太陽の力を暫く奪って、そうすることで雨を呼び、その間に奪った太陽の力を、雨上がりに放出する存在」と設定したらどうだろう。
B:いや、ごめん。よく分からない。
A:雨上がりに放出する、というか、太陽に返す、とか。
B:ゆっくり読めば理解できそうな気がするのだけど。
A:アメフラシが太陽に力を返すのを邪魔したら、そのあと暫くは雨が続くとか。と思いつつ読んでいたんだけれど、最後の段落が少し浮いていて、ここは要るのかなあと、少し思った。
B:ゆっくり読んでみた。が、最初に読んだときと同じ。いい具合に郷愁があるだけ。意味とかはよく分からない。ってか、最後のは重要でしょう。
A:まあ郷愁の源は、最後の段落だと思うけど。うーむ、まさか夢落ちということは、ないよね?
B:いや、それはないと思う。
A:だよね。青コーナが勝ち進むと思うなあ
B:同じく青コーナと予想。理由は著者がはやみかつとしさんだから。こう言っては何だけど、松本楽志さんより人気がありそう。もちろん、本人の人気で選評が左右されるとは限らないと思うけれど。
A:そうなんだー。人気までは私は知らないや。なるほどね。

▼▼ 第4試合:『壊れたメトロノーム』▼▼

赤コーナ: よもぎ
放課後の誰もいない音楽室が好きだった。
ピアノのふたを開けると、ホコリっぽい西日にカーテンが揺れた。ひとつ覚えのサテンドール。楽譜を見ながら弾いていると、ン・パン・ン・パンと手拍子の音がした。手を止めて振り向いた。見慣れない男子が微笑んで立っていた。「お上手ですね。どうぞ続けて」 優し気な瞳にそう言われて悪い気はしなかった。気のないふりをしながら、またピアノに向かう。彼は曲に合わせてオフ・ビートで手を叩いてくれた。弾むリズムにサテンドールが軽やかにスウィングする。ブルーノートが気持ちよくメロディを踊らせた。テーマを繰り返す手を止めることができず、いつまでもいつまでも私はピアノを弾き続け、弾き続け・・・。
気がつくと私は鍵盤に顔を伏せて気を失っていた。彼はいなかった。ピアノの端にそれがぽつんと置いてあるきりだった。手にとってゼンマイを巻く。針がゆっくり右から左に揺れて一度だけチンと鳴った。そしてもう二度と動かなかった。

青コーナ: 根多加良
 しゃべりたかった。だけどしゃべらなければよかった。いつも言葉は思いには届かなくて。気持ちを言葉に出せなくて。ふたりでいたのに、ひとりでしゃべっていた。しゃべることだけしかできなくて、話されることにはなれていなくて、探して選んで探っていたり。教えたり教わったりするおしゃべりのしかたをどうやればいいのか考えたり。考えているとそれまでのことを忘れたりして。
 なにをしゃべろう、あれをしゃべろう、いましゃべっているよ。
 日曜日の夜、ぽっこりとした満月の下で交わした楽しいおしゃべりは、口の端からこぼれて、土に落っこちてくぼみのなかで溜まっていく。やがてくぼみから溢れ出す、おしゃべりは流れを空に昇ることも許されずに遮られて、息苦しく喘いでいる。
 どれもひとつのおしゃべりにならずに、どれもこれもテンポだけの、断片ばかり。どのおしゃべりにも繋がっていないおしゃべり。まとまらずにぷりんと弾いた。あらら、脂?
 弾かれたおしゃべりが地面に吸われていく。だからすべてが帰って、やり直し。

 残されたものは月。
 消えていくものは太陽。
 あとはまっくら闇。
 ひそひそ声でそうぞうする。

B:おおおお!! これはこれは、赤コーナ、いいんじゃない!? こういうの大好き!
A接戦だなあ。どっちもいいね。
B:青コーナは青コーナでいいよね。赤コーナは、お題そのまんまなのが欠点かな? かな?
A:わりあい直球だよね、赤コーナ。手拍子の擬音が巧みで良いね
Bン・パン・ン・パンでしょう。こんな手拍子されちゃあ、恋に落ちるよね
Aよねー
B:青コーナも素晴らしい! 赤コーナがもっと稚拙だったら、存分に青コーナが誉められるのに。ねったかりょう! ねったかりょう!
A:青コーナは、メトロノームは出てこないのだけれど、すごくそれを読みながら意識させられた
B:そうそう、自然で上手いよね。
A:最初はおしゃべりがメトロノームがしているものなのかと思ったから、なんだあと、残念に思ったけれど、そうじゃなかったね。リズムそのものみたいだし。
B:うん、これは、青コーナが勝ちそう。うまくお題を処理してる
A:青コーナだな、やっぱり。直接書いてないのに、イメージさせられてしまう点が、すごく上手いと思った
B:でも、赤コーナの方が好きだから、別にどっちが勝っても不満なし。当方に満足の用意あり!
A:まあね。でも勝ち抜くとすれば青コーナだと思うなあ。

▼▼ 第5試合:『赤い箱』▼▼

赤コーナ: 脳内亭
 すべて、止まれ。に染まる世界を、カレーのにおい背に駆けていく。長い長いしっぽのような影ふむ道。
 見上げれば、平らな空に、一点、くぼんだ雲があるとわかる。急ごう。
 声を聞いたんだ。
 四つ角で図らず迷う。足も止まれば、耳元で風の甘いささやき。しっぽの先がトガる。なびくのか? 成長を恐れないと言えば嘘になる。だけどおれ、だけどおれは。
 正義の味方まっすぐに。
 辛くも着いた公園には、ジャングルジムの飛行機。さあ乗りこめ、鍵となって、あの空のイビツに突っこんで、回せ。
 声を聞いたんだ。
 夕暮れに閉じこめられた、夜が泣いている。
 泣かしてんじゃねえ。

青コーナ: キセン
 針金の上での直立に似た不安定な眠りのなか、あなたは何かが喉をせりあがってくるのを感じる。ん、と思うと次の瞬間にそれは猛烈な勢いで口のなかにあふれ出る。あなたは何がなんだかわからないまま必死で唇を閉じているが、途切れなく上ってくるそれに長く耐えられそうにない。それでも耐えていると鼻から噴き出る。吐瀉物は鼻から出ないだろう。あなたはそれが血であることを知る。そして自分が死ぬことをも。残された時間はほとんどない。とうとう閉じた唇の端から血がだらだらと流れ落ちる。あなたは失禁したかのような恥ずかしさを覚える。急に力が入らなくなり、ぼんやりと唇が開く。意外なほど長い時間血液が飛散する。あなたは吐血する自分をぼんやりと眺める。意識が痺れる。布団も枕も真っ赤に染まっていく。ふと、開いた掌の上に何かが落ちるのを感じ、視線を向ける。箱だ。もとは別の色だったのかもしれないが、すでに血の色に染まっている。あなたはそれを見て、そのなかには生が入っているのだという確信を得る。自分が吐き出したあの箱のなかには、わずかに残された生が入っているのだと。あなたはその箱を残された力を使って開ける。
 あなたは七秒後に死んだ。

Bキセンさんは、こんなに上手い超短編を書くなら『雲上』に書いてくれればいいのに!
A:うーむ。どっちがいいとか言えない感じもするなあ、この二作だと。
B:え、圧倒的に青コーナじゃない?
A:どうでもいいけど、赤い箱って赤コーナの作品が入ってるのも、赤い箱だよねー
B:ああ、言われてみれば。え、もしかしてそれを意識してる?
A:いんや、ぜんぜん。
B:だよね。赤コーナは一行目に「すべて、止まれ」ってあるじゃない、ここから赤信号を連想して、でも赤信号は「止まれ」じゃないよなあと引っかかってしまった。と言うか、言葉選びがそれほど上手くないように思う
A:え、赤信号は止まれじゃなかったっけ?
B:ええっと、上手く説明できないけど、右折するために交差点の中央近くまで出てきた車は、赤信号になってから交差点から出るために右折を完了させるよね?
A:そうだね。交差点への進入行為に対して「止まれ」なのが赤なんじゃない。既に交差点に入ってる車は、信号を過ぎてるから、進めるんだと思うよ。
B:なるほどね。でも、まあ、どちらにせよ「すべて、止まれ」じゃないでしょう。
A:そこは書き方が悪いんじゃないかな。「すべて「止まれ。」に染まる世界」だと思うよ。つまり夕方だと言いたいんだと思う。
B:ほほう、そういうことか。ってか、夕方なのは分かるけどね。そう格好いい表現でもないでしょう
A:まあ他でも書いてあるからね、夕方だって。格好いいかどうかとなると、まあ普通の表現だと思うけど
B青コーナは格好いいよ
A:表現の上手さでいえば、圧倒的に青コーナでしょう。
B:そうそう、痺れる。
A:ただねー、表現だけで押し通してる気もするんだよね。
B:いや、そうかなあ。箱が何であるか、その中身がなにか、どうして七秒後なのか。謎をばら撒いているから、想像して楽しめる。
A:疑問には思うけれど、解くための手がかりが無いんだよね。想像の余地が大きすぎるように思う。
B:ううん、でも、キセンさんのそれは作風でしょう。彼の感じは、エレベータのときからずっと継承されて、しかも成長してると思う。
A:エレベータ?
Bここの真ん中ぐらい、密室劇場。
A:密室劇場の方は、主人公の狂気的な欲求とか、エレベータが止まらないとかが、面白いけれど、今回の作品はどうだろう、そういう要素がないと思う。
B:ふうむ。まあ、確かに再読する前は一続きの、連続性があるように錯覚していたけれど、再読してみるとそうでもないね。今回の作品の方が達者になっていると思うけどね。
A:描写に関しては、私もそうだと思うけれどね。……パンドラの箱? あれって、なんか開けると世界が滅ぶとか、そういうのだっけ? 記憶があやふやなんだけども。
B:え、違うでしょう。
A:あ、記憶違いか。
B:ええっと、パンドラっていうのは全てを与えられていた女の子で、でもこの箱だけは開けちゃいけないよって言われて、でも好奇心に負けて開けちゃったところ、世界に悪意が解き放たれてしまう。とかじゃなかった? 青コーナのこの話とは関係ないでしょう。
Aうぃきぺでぃあー
B:困ったときのWiki頼みだね。
A:便利だねインターネットって。
B:ああ、そう言えばブギーポップの三巻だったか四巻だったかで題材にされてたね。
A:「希望だけは失わずにすんだ」だって。二度目に開けたら、希望が無くなるよね。それと死んでしまうことは、関係ない、か。まあ、七秒後の説明にはなってないから、違うかな。
B:うん、関係ないでしょう。
A:じゃあ気のせいってことで。
B:と、青コーナを絶賛しておいてなんだけど、勝ち抜くのは赤コーナで決まり。これはガチ
A私も赤コーナだと思う。ぜひBの赤コーナだっていう理由を聞いてみたいね。
B500文字の心臓では、純粋な上手さや斬新さより、その作品が要する背景や喚起されるイメージのバリエーションが評価される傾向にあるから
A:そういうものか。じゃあ私の基準は500文字の心臓寄りなのかなあ。
B:だから、さっきのはやみかつとしさんの作品もいくつか☆がつくんじゃないかな。

B:じゃあ、残りはまた明日。
A:また明日ー。
posted by A&B at 12:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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